■ポストコロナにおけるDX推進にかかる 政策課題の検討昨年度、ポストコロナを見越し、政府が進めるデジタル化への対応について、地方自治体では何から手をつけるべきなのか、総合計画の改訂における重点プロジェクトのアイデアだしとして企画課担当者と受託案件を通して議論する機会を頂戴しました。■業務効率化 VS 住民のQOLの向上自治体担当者が進めやすいDX対応の典型例は、「RPA(人の代わりにパソコン上の定型作業を行うソフトウエアロボット)ツールの導入」でした。行政内部の働き方改革や業務効率化に効果のあるRPAは、だれも反対せず庁内調整が行いやすいと伺いました。筆者としては、こうした内部フィールドの取組よりも、住民のQOLを高める行政サービスのDX対応を優先すべきと考えています。スマートシティプログラムとして、交通・福祉・防災・教育分野などでの社会実装プログラムの推進です。■外部フィールドにおける官民連携による デジタル技術の社会実装住民サイドのDX対応を個人的には外部フィールドの取組と定義していますが、先行事例の中には、技術優先を急ぐあまりニーズに即していない社会実装ケースが見られます。自動運転技術の実験を進めたい提案側と実際に用いられたモード(車両)では地域ニーズに応えられないチグハグな交通実験だったり、せっかく開発したツールも行政・業界関係者から使いづらいと本番が心配される防災関連ツールがあると伺います。一朝一夕には成就しないものの、行政と民間が連携し、知恵を出し合うことで、QOLを高めるDX・ツールの開発を期待したいと思います。我々も急速なスピードで進化しているDXに対して、行政側が抱える社会課題に応えられる民間技術の選択支援や、民間側が有するデジタル技術を行政が関与する住民サービスに活用する実装支援など、行政と民間の橋渡し役として、スマートなまちづくりを実現するお手伝いをしていきたいと考えています。官民連携によるスマートシティ・DXの勘どころ公共経営(PPP等民活導入・事業化戦略)■合言葉化するデジタルとグリーンは VUCAの時代に機能するのか2015年にSDGsが登場し、度重なる自然災害やコロナ禍を経て、今の日本の政策はデジタルとグリーンが合言葉になっています。一方で、持続可能な開発の概念の登場は1987年のブルントラント報告(Our Common Future)に遡り、日本のIT戦略の始まりは20年ほど前のe-Japan戦略です。もちろん、ITとデジタルは分けて理解する必要があるように、概念の変化はありますが、いずれも今に始まったことではありません。地域社会のデジタル化の推進や、環境問題・社会問題を意識した取組は、本当に未来を生きることに繋がるでしょうか。テクノロジー等に期待して理想的な社会ビジョンを描くことにどのような意味があるでしょうか。今はVUCA※の時代とも言われます。これをやれば正解という定石のようなものは存在せず、変動する社会情勢、確度の不明な情報、グローバルで複雑な社会経済システム、曖昧なルール等の中に組織や個人は身を置いています。■VUCAの時代に求められるのは 対象課題の構造化と仮説検証の能力重要なことは、VUCAの時代であるからこそ、過去からずっと変わらないもの、これは確かだと力強く言い切れるものを特定すること、物事を複雑・曖昧なまま受け入れるのではなく単純化・モデル化して構造理解に努めること、その上で間違いを反省・修正できることだと考えます。そのためには、対象課題の本質を見極め、課題解決のアイデアと期待される結果の全体像をデザインし、アイデアを実際の行動に移すことで確かなデータとエビデンスを得て、効果検証と必要な軌道修正等を行う。このような仮説・検証サイクルの継続運用と、その基盤となる組織や制度等のあり方を柔軟に変えられることこそがVUCAの時代を生きる上で求められる考え方であると思います。デジタル、グリーン、SDGsに取組むことを目的化するのではなく、所属組織や個人にとって何が重要であるのかを俯瞰的に捉え、行動と検証を繰り返していきませんか。VUCAの時代を生きる ~問題の構造化と仮説・検証サイクル~公共経営(PPP等民活導入・事業化戦略)112021-22 SEARCH主任研究員筒井 康史都市及び地域計画建築計画交通・物流政策/地域防災研究員志賀 優貴PPP(官民協働・連携)都市・環境マネジメントリスクコミュニケーション※VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字から取った言葉であり、先行き不透明で予測困難な状態を指す
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