2020-2021SEARCH
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■よく聞く「うちのまちは生活しやすい」これまで「うちのまちは、何もないけど、生活はしやすいと思うよ」と聞くことがあります。その本旨は「どこに行くにも便利」「スーパーとか、たいていのモノがある」ということと思われます。この地域では道路をつくり、店舗などの生活利便施設の誘致(立地)を促すことが、生活しやすいまちづくりの具体でした。一方、最近はネット通販などのeコマースによって”お取り寄せ”が定着しつつあります。人が”移動する”ことを前提とした、これまでの「生活しやすいまち」は、(移動を伴わない)”お取り寄せ”が存在感を示す中で、どのように変節していくべきでしょうか。■ショールームとなる実店舗eコマースの先進国である米国では大型商業施設のショールーム化が進んでいると聞きます。欲しいモノはネットで目星をつけ、実店舗では商品の質感や使用感などを確認して、購入はネットで、という行動パターンです。このため大型店舗では来店客数に変化はないけど売上を減らし、結果として閉店に追い込まれるケースが相次いでいるとされます。我が国でも、こうした消費行動は現実になってくると思われ、これまでのような大規模店舗はなかなか成立しにくくなると思われます。■利便性以外の「うちのまち」の良さこのため今後のまちづくりでは商業店舗が建ち並ぶ「にぎわい」創出は容易でなくなっていくことが想像できます。また「たいていのモノが近くにある」ことは「生活しやすさ」そのものなのか、という疑問が生じます。冒頭の「生活しやすいよ」の含意は「うちのまちの良さ」と思います。近年のシビックプライドとの関係を考えると、生活利便性以外の良さ、例えば眺めの良さ等のアメニティ、人との距離感(コミュニティ)といったことが、今後のまちづくりにおいて、より重視されていくように思えます。「生活しやすいまち」の定義は変わるか都市計画・施設計画、まちづくり■歩くことに着目したまちづくり地域の魅力を高め、活性化を図る手段の一つとして、歩くことに着目する自治体がますます増えています。「居心地が良く歩きたくなる(ウォーカブルな)まちなか」づくりの取組に賛同し、ウォーカブル推進都市として名乗りを上げる自治体は、この1年で50団体増加し、2021年5月31日時点で全国309自治体となっています。その動きを後押しするのが、2020年6月に社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会が提言した道路政策のビジョン「2040年、道路の景色が変わる」です。同ビジョンでは、人々の幸せの実現のため、道路を人々が滞在し交流できる空間に「回帰」させることを基本的な考え方に示し、一例として「公園のような道路に人が溢れる」絵姿を描いています。■外からの目線が不可欠ウォーカブルなまちづくりには、歩く人の目線でまちの魅力・資源を見つめ直し再発見する過程が重要です。また、そこには地域住民、事業者等の地元目線だけではなく、地域の外から歩きに来てくれる人や滞留しに来てくれる人(来訪者)の目線も不可欠です。何故なら、まちの外から人が訪れ、過ごしてくれることによって初めて、新しい地域の魅力の発見・発信や交流、活力が生まれるからです。■ウォーカブルなまちづくりの第一歩地域の外の人の声を集める方法として、定性的な情報を一定数得ることを主眼とする場合、スノーボールサンプリングと呼ばれる手法があります。これは、初めに要件に合う人にヒアリングを行い、その人から知人を紹介してもらうことを繰り返していく形で雪だるま式に声を集める手法です。例えば、休日の公園や史跡・散策路等、人の集まる場所で調査を行い、地域外からの来訪者がいたら、インタビューを実施すると共に回答者の紹介を依頼し、回答を集めていきます。インタビューといった堅苦しいスタイルを採らなくても、手始めとして、スマホやマップを片手に街歩きを楽しんでいる(ように見える)人を界隈で見掛けたら、不審がらずに温かく声を掛けてみてはどうでしょうか。地元目線では見逃していた思わぬ知見が得られる可能性もあります。ウォーカブルなまちづくりの成功のカギは、意外とすぐそばに潜んでいるかもしれません。もっとウォーカブルなまちに都市計画・施設計画、まちづくりForesight [ 視 点 ]16主任研究員轟 修都市・地域計画土地利用地区交通計画副主任研究員岩田 賢都市・地域計画社会資本政策地域防災

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