人権デュー・ディリジェンス(人権DD)における監査の実務(2)~監査の流れと留意点~

2023/01/26 櫻井 洋介、米戸 花織
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前回のコラムでは、企業がサプライヤーや自社のグループ会社に対して実施する人権に対する監査の概要と、第三者監査と第二者監査についてご紹介しました。今回は、監査における留意点と具体的な監査の流れについて解説します。

監査で何を見るか

監査では、法令を100%遵守さえしていれば、指摘事項がゼロとなるわけではありません。指導原則で企業の人権尊重責任は国際的に認められた人権(=国際基準)に拠ると明記されていることからも(原則12)、人権に対する監査で確認する基準はどの国・地域でも共通となる「国際基準」です。そのため、国際基準と国内法令を比較し、双方でギャップが発生している場合はより厳格な規定を採用する必要があり、採用するべきとされております。時には法令で求められる以上の対応が必要となることもあります。一方で、国際基準と国内法令に矛盾があり、国際基準を採用すると法違反となってしまう場合は指導原則では法律に反しない範囲で国際基準を実質的に保証する措置を講じることが求められています(原則23)。国際基準と国内法令の比較や、賃金や労働時間、工場の安全衛生環境を確認するにあたっては一定の法令知識や実務経験が求められます。そのため、監査の際は監査対象となる企業(被監査企業)の所在国や地域における労働関連法令の知識があり、労務管理や労働安全衛生の実務経験や人権について知見のある社内外の担当者・専門家の協力を得ることが望ましいでしょう。

なお、監査においては、確認項目が記載されたチェックシート等を用います。チェックシートは、抜け漏れ防止や各項目の確認作業を効率的にできる等、利点もあります。しかし、これに頼るのみでは監査の実施自体が目的化してしまい、重大なリスクや潜在的なリスクを見落としてしまうおそれがあります。そのため、監査時はチェックシートに頼るのみではなく、しっかりと現場を見ると同時に、労働者や管理者の話に耳を傾け、状況や課題を把握することが重要です。

監査の流れ

監査の前段として、事前のコミュニケーションを適切に行うことが求められます。まずは、人権尊重に向けて期待する行動を定めた行動規範・ガイドライン等を策定し、グループ会社やサプライヤー等に対して遵守の要請・依頼を行います。その上で監査を実施する際は、「国際基準に基づいて設計された行動規範やガイドラインで定められている行動が適切に実施されているか」という観点で行うことが一般的です。そのため、グループ会社やサプライヤーに対して、事前にきちんと行動規範・ガイドライン等の内容を説明し、理解してもらうことが大切です。

また、監査の対象を絞り込む必要もあります。すべてのサプライヤーに対して監査を行うのはコスト・リソースいずれからも現実的でないことから、自己調査票(Self-Assessment Questionnaire: SAQ)やアンケート調査を実施し、人権への負の影響が深刻な可能性のある対象(サプライヤー等)を絞り込み、監査対象を決定します。

実際の監査では、主に書類レビュー、サイト確認、労働者・管理者へのインタビューを行います。これらを通して、国際基準と照らし合わせながら、人権への負の影響が実際に発生していないか、または潜在的なリスクがないか、予防措置が取られているか等を確認します。

【図表】監査前~監査後の流れ
監査前~監査後の流れ
(出所)当社作成

実効性のある監査にするために

監査の結果、指摘事項等が見つかった場合、まずはその原因を把握し、是正への協力姿勢を示すことが重要です。グループ会社やサプライヤーだけでは対処が難しい課題もありますので、決して任せきりにせず、是正に向けた協力を可能な限り実施しましょう。

また、「自社の行動を省みる」ことも大切です。たとえば、監査の結果、サプライヤーの労働者に長時間労働が見つかり、その主な原因が自社の無理な発注や納期の指定であった場合は、自社の対応を見直していく必要があります。

監査を実施する目的は、決してリスクの把握や対処だけではありません。監査を通じて関係者との対話を図り、お互いの「気付き」を得るための機会として活用することで、自社の知見も広がり、自社の人権への取り組みをより実効性のあるものにできるでしょう。

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執筆者

  • 櫻井 洋介

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    シニアマネージャー

    櫻井 洋介
  • 米戸 花織

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット サステナビリティ戦略部

    コンサルタント

    米戸 花織
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