EATモデルを活用した異文化理解教育(3) ~体験型演習の活用事例~

2023/02/06 大坪 翔一
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前回のコラム「EATモデルを活用した異文化理解教育(2) ~ケーススタディの活用事例~」では、異文化ケーススタディを活用した研修プログラム例をご紹介しました。本コラムでは当社が提供しているグローバルリテラシー研修における体験型演習をご紹介します。

文化の氷山モデル

文化を考える際に押さえておきたい考え方として、「氷山モデル」があります。これは、文化には「目に見える部分」と「目に見えない部分」があり、氷山のように「目に見える部分」は全体のほんの一部分にすぎないという考え方です。たとえば、「言語」、「服装」、「料理」などは目に見える部分の代表例です。一方、「価値観」、「信念」、「思考パターン」などは、文化の根底にあるもので、目で見ることはできません。

異文化を持つ相手を本質的に理解するためには、「目に見える部分」だけで相手を判断するのではなく、その根底にある「目に見えない部分」まで理解することが重要です。

ここでは、「文化の氷山モデル」を体感できるようにEATモデルでプログラム化した演習をご紹介します。

なお、本演習はハワイ大学のPaul B. Pedersenらによって考案された“Outside Expert”というエクササイズを参考にしたものです。

体験型演習:未開の文化を探れ!

この演習では、参加者を架空の民族「X族」役と、「文化研究者」役に分けて進行します。文化研究者とX族の人数は2対1程度です。この演習では、「X族の文化を明らかにする」というミッションが文化研究者に課せられ、文化研究者にはX族へのインタビューの機会が与えられます。

【図表1】体験型演習の概要
体験型演習の概要
(出所)当社作成

初めの10分で、X族と文化研究者はそれぞれ別行動をとります。

X族は別室に移動し、自分たちの文化、すなわち行動ルールを講師から学びます。ちなみに、X族は、日本語の質問内容は理解できるが、「はい」「いいえ」でしか質問に回答できないという設定になっています。

文化研究者は4~5人ずつのチームに分かれ、各チームで議論しX族への質問事項を整理します。多くのチームでは、「衣食住」の切り口などから、「主食はあるか」、「宗教はあるか」、「家は木造か」など質問を考えている様子が見られます。

10分経過後、文化研究者の各チームにX族が2人ずつ加わり、インタビューセッションが開始されます。文化研究者はひとりずつ順番に質問を投げかけるルールとなっています。

【図表2】インタビューセッションの様子
インタビューセッションの様子
(出所)当社作成

インタビューが進むと、「はい」「いいえ」の回答によってX族の未知なる文化の特徴が明らかになっていきます。ただし、一部の質問に対して、X族は目を伏せて回答に悩むような様子も見られます。

このインタビューセッションを2回終えた後、文化研究者の各チームはX族の文化について簡易な研究レポートを提出します。ある研修で提出された実際の研究レポートは以下の内容でした。

ご覧の通り、同じ行動ルールを持っているX族にインタビューをしているにも関わらず、研究レポートの内容は大きく異なります。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

この演習のポイントはX族の行動ルールの設定です。実は、X族はたった3つのシンプルな以下のルールにしたがって、質問に対して返答していたのです。

① 眼鏡をかけている人に声を掛けられたら、無視をして目を伏せる
② 質問内容に関わらず、にこやかな口調で話しかけられたら、「はい」と答える
③ 質問内容に関わらず、にこやかな口調でなければ、「いいえ」と答える

まさにこのルールが、「文化の氷山モデル」における「目に見えない部分」と言えます。つまり、「X族」に表出された行動の背景には、この根底に持っている「価値観」が存在しているのです。こうした相手の持つ独自の「価値観」を理解せずに、「目に見える部分」だけで相手を判断すると、正しく相手を理解できず、時に大きな誤りにつながることもあります。

参加者は、この演習を通して、普段感じることが難しい「文化の氷山モデル」を体感できます。そして、異文化と接する際には、これまでの自分の常識にとらわれることなく、相手文化の「目に見えない部分」にも意識を向け理解に努める重要性を学ぶことができるのです。

まとめ

一連のコラムにて、異文化理解教育の重要性と、その実践例としてEATモデルを取り入れた研修をご紹介しました。

国内において日本人同士で働いている限り、異文化を意識したり、体感したりする機会は多くありません。しかし、コラム「EATモデルを活用した異文化理解教育(1)~研修設計の画期的な手法~」で述べた通り、今後ますますグローバル化は進みます。さらに、オンラインで気軽に商談できるようになったため、海外とのやりとりが従来より頻繁に発生することもあるでしょう。そのような中、研修の場で異文化理解の要諦を参加者が効果的に習得するためには、ケーススタディや体験型演習等の「経験」を通して気づきを得られるよう、プログラムの創意工夫が求められます。

書籍の通読やe-Learningではなしえない深い学びにつながる「経験」を演出できれば、おのずと研修効果は高まり、自社の海外メンバーや商談相手と良好な関係性を築くことができ、ビジネスチャンスも広がるでしょう。

【関連サービス資料】
グローバルリテラシー研修


(参考文献)
Paul B. Pedersen & Allen E. Ivey (2003). Culture-Centred Exercises for Teaching Basic Group Microskills Canadian Journal of Counselling I Revue canadienne de counseling I, Vol. 37:3

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