「戦略」と「リスク管理」の統合によるガバナンス強化(1)

2023/08/03 柳谷 公彦、山内 哲也
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はじめに

近年、日本における企業のガバナンスに関する議論は、規制対応や法令等遵守といった「守り」の側面から、適切にリスクテイクすることにより、中長期的な企業価値を向上させていくという「攻め」の側面に移りつつあります。しかし実際には、こうした議論が自社のガバナンスの変革にうまくつながっている企業は依然として少ないといえます。

本コラムでは、企業のガバナンス高度化に向けて必要となる、3つのトランスフォーメーションについて解説します。

※なお本コラムでは、3つのトランスフォーメーションのうちのひとつとして、「取り組み事例1『守り』(リスク管理)のトランスフォーメーション」について紹介することとし、残り2つの取り組み事例は、「『戦略』と『リスク管理』 の統合によるガバナンス強化(2)」にて紹介します。

日本企業における「戦略」および「リスク管理」の現状と課題

企業におけるガバナンスは、企業の目的を達成するために構築するものであり、本来は「攻め(戦略)」や「守り(リスク管理等)」といった二元論で語られるようなものではありません。

しかし、日本企業における過去のガバナンスの議論においては、1990年代以降の長期にわたる経済の停滞、およびそれらが遠因となって相次いだ不祥事等を背景に、「守り」の側面が強調されていました。たとえば内部統制体制の構築等、制度への対応として他社の状況をにらみながら、横並びかつ画一的に対応しようとする傾向も見られました。こうした体制は概してメリハリが十分に利いておらず、その企業にとって真に重要なリスクを適切に管理できていないケースもあると考えられます。

また、2010年代以降、環境や社会に配慮した持続的な成長および中長期的な企業価値の向上を目的とした、「攻め」の議論が活発になっています。しかし、実際には、過去の長期にわたる経済低迷の時代を通じて、自組織を存続させるための短期的な業績達成に主眼が置かれ、中長期的な目線から経営戦略を検討できていない企業が依然として多い状況です。

さらには、ガバナンスの「守り」の側面が強調されてきた一方で、こうした「守り」の構築に対して投資をするという意識が企業に希薄であったことから、欧米企業等と比較して、ガバナンスやリスク管理におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)投資が十分に行われず、非効率的な業務が温存されているのが現状です。

課題脱却に向けた3つのトランスフォーメーション

こうした課題から脱却するためには、3つの観点からのトランスフォーメーションが必要と考えます。

「守り」の側面においては、新たに出現するリスク(エマージングリスク)も含めて、自社にとって真に重要なリスクを捉えて重点的・機動的にリソースを配分する等、メリハリの利いたリスク管理態勢を構築することが肝要です。

「攻め」の側面においては、中長期的な観点から持続的な成長を追求するために、とるべきリスクはとって、機動的に経営資源を配分していくための事業ポートフォリオ管理手法の整備が求められます。

また、こうした「攻め」と「守り」のガバナンスを一体的かつ効率的・効果的に管理するためには、統合的なデジタルプラットフォームの構築が欠かせません。

【図表1】
3つのトランスフォーメーション
(出所)当社作成

取り組み事例1「守り」(リスク管理)のトランスフォーメーション

日本企業において、過去の不祥事や制度対応等に個別に対応してきた結果、リスク管理が「サイロ化(縦割り化)」している例が散見されます。その結果、個別のリスクは厳格に管理されている一方、全社で横串を通したリスク管理になっておらず、真に重要なリスクを適切に捉えられていない可能性があります。

こうした課題を払拭するためには、次に述べるようなグループ全社統一的なリスク管理態勢を構築する必要があります。

まず、グループ全体でリスクの全量を把握したうえで、そのリスク全量の中から、自社グループにとって重要なリスクを評価・選定します。そして、選定した重要リスクに対してリソースを重点的に配分・管理したうえで、定期的に管理状況をモニタリングします。最後に、このプロセスを定期的に回すための仕組みを整備します。

【図表2】
グループ全社統一的なリスク管理態勢
(出所)当社作成

なお、グループ全社でのリスク全量を適切に把握し、自社グループにとっての重要リスクを評価・選定するためには、グループ共通の「リスクカテゴリ」を整備するほか、リスクの影響度や発生可能性といった軸に基づく「リスク評価基準」を設定する等の工夫が欠かせません。

【図表3】
リスクカテゴリとリスク評価基準
(出所)当社作成

おわりに

本コラムでは、日本企業におけるガバナンスの現状と課題、およびこれらの課題を払拭するために必要な3つのトランスフォーメーションのうち、「取り組み事例1『守り』(リスク管理)のトランスフォーメーション」を紹介しました。

「『戦略』と『リスク管理』の統合によるガバナンス強化(2)」では、「取り組み事例2『攻め』(戦略)のトランスフォーメーション」および「取り組み事例3『攻め』と『守り』の統合に向けたデジタルプラットフォーム構築」を紹介します。

【関連資料】
「戦略」と「リスク管理」の統合およびデジタルプラットフォームの活用によるガバナンス強化

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