新しい時代のガバナンス(3)日本企業における不祥事①

2023/10/03 阿部 功治、中山 尚美、船木 陽介
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本連載では、「新しい時代のガバナンス」というタイトルを掲げ、グローバルベースで企業経営を取り巻くリスクが多様化・複雑化するなか、日本企業が競争力を高め成長のモメンタムを取り戻すためには何が課題なのか? 何をすべきか? について、「ガバナンス」の視点から論じています。

第3回の本稿では、日本企業のガバナンスをめぐる実態と課題について、日本企業の不祥事発生のメカニズムの観点から説明します。

日本企業の「ガバナンス」は機能不全状態

第2回では、日本企業のグローバル競争力の低下の背景には「イノベーション創出力の停滞」が存在し、その打開には、企業経営におけるリスクテイクとそれを規律付ける適切なガバナンスの確立が必要不可欠であることを説明しました。

グローバル経営への移行に伴いステークホルダーから経営陣に対して、業績達成だけではなく、気候変動への対応、ジェンダーやダイバーシティ、サプライチェーンと人権、企業経営の透明性の確保/情報開示の強化等が求められています。これらを受けた日本における動きとしては、コーポレートガバナンス・コードの改訂や会社法の改正が行われ、各企業でも中長期戦略の柱の一つとしてコーポレートガバナンスの高度化を掲げるなど、不祥事の防止に向けたガバナンスの確立を図ってきています。

一方、第三者委員会調査報告書を開示した上場企業数の推移が減少することなく、高い水準で推移していることを踏まえると、不祥事が頻発しているとみられます【図表1】。また、不祥事の内容について俯瞰すると、従業員の横領や会計不正だけではなく、製品品質に関するデータの改ざんといった、日本の強みでもある製造業の信頼を根本から揺るがすような事案も目立ち始めています。その他、大手企業がその顧客や業界全体、さらには地域社会の信頼を踏みにじるような不適切な対応を長年にわたり行っていたことが発覚したり、旧態依然たる組織風土と未成熟なガバナンスの中で薬物やハラスメントに係る問題が発生したりと、「ガバナンス」不全に起因すると思われる事案が後を絶ちません。

【図表1】第三者委員会調査報告書を開示した上場企業数の推移(年度別 ※調査報告日基準)
第三者委員会調査報告書を開示した上場企業数の推移(年度別 ※調査報告日基準)
(注)同一年度において複数調査報告書を発表している企業はまとめて1社としてカウント
(出所)第三者委員会ドットコム (daisanshaiinkai.com)の情報を基に当社作成

不祥事が発生する企業が抱える課題

このような不祥事が頻発している企業は、グローバル経営への移行に伴いステークホルダーから経営陣に対するニーズが多様化し、プレッシャーが従来よりも高まっているにも関わらず、その場しのぎの対応を繰り返し、本質的かつ実質的なガバナンスの確立に取り組んでこなかった可能性があります。これらの企業は、「経営の規律付け」と「経営の執行管理」の双方において依然として課題を抱え、結果として不祥事を引き起こしやすい体質が温存されていると考えられます。

不祥事発生のメカニズムを「経営の規律付け」と「経営の執行管理」から考える

上述した「経営の規律付け」と「経営の執行管理」は、日本企業における不祥事発生のメカニズムを考える上で重要な視点です。

「経営の規律付け」とは、取締役会の監督機能を高め、中長期的な企業価値向上に資する取組みの方向性を定めることです。不祥事の背景には、往々にして経営者自身が内部統制を無視(逸脱)し、本来は経営者の問題行為を取り締まるべき取締役会の監督機能が十分に働いていないことが挙げられます。また、取締役のリスク管理に対する意識の低さ、コンプライアンスに対する知識の欠如も要因の一つとして想定されます。最後の砦であるべき取締役会がその役割・責務を十分に果たせずに適切な規律付けが失われてしまえば、経営者の専横的な経営が顕著になり、企業は活力を失うばかりか深刻な不祥事により存続すら危うくなりかねません。

「経営の執行管理」とは、組織運営上の守りを固めつつ、経営者が安心して経営に専念できるような態勢を維持・構築していくための個別具体的な統制を指します。グループ経営管理方針の策定、内部統制の整備・運用、リスク管理態勢・内部監査態勢の構築等がそれに含まれます。経営の執行管理を構成する個別具体的な統制は、各々が有機的なつながりを有しているため、個々の取り組みを充実させるだけではなく、包括的に取り組むことで、不祥事の防止に対してより大きな効果が期待できます。逆に言えば、これらの統制が不十分である時に不祥事の発生リスクが高まる、とも考えられます【図表2】。

第3回では日本企業のガバナンスをめぐる実態と課題について、不祥事のメカニズムと、「経営の規律付け」と「経営の執行管理」の観点で説明しました。第4回では、不祥事の遠因を説明します。

【図表2】日本企業における不祥事発生のメカニズム
日本企業における不祥事発生のメカニズム
(出所)当社作成

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執筆者

  • 阿部 功治

    コンサルティング事業本部

    サステナビリティビジネスユニット GRCコンサルティング部

    部長 プリンシパル

    阿部 功治
  • 中山 尚美

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    中山 尚美
  • 船木 陽介

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット コーポレートアドバイザリー部

    シニアマネージャー

    船木 陽介
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