システム化の前に取り組むべき業務改革(1)

2024/02/21 山田 喜宣
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業務改革
業務効率化

ICTの活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)など、デジタル技術の発展を背景にした経営改革は、新たな形や発想で進化を続けています。その主な目的は業務効率化と価値創出の2つに大別できます。本コラムでは業務効率化の中でも、あらゆる企業に存在する事務的な業務の効率化に焦点を当てます。ただし、ここで取り上げるのは最新のデジタル技術を活用した「システム化」による効率化ではなく、デジタル技術を活用する前に行うべき業務改革についてとなります。
このような前提を強調している理由は、昨今「効率化と言えばシステム化」と捉える傾向が強くなっているためです。もちろんシステム化は効率化に寄与しますが、それは数ある手法の1つに過ぎません。かつ、システム化には「導入の手間や多額のコストがかかる」という側面があります。対象となる業務によっては、システム化に頼る前に他の手段による効率化を進めた後にシステム化を検討するほうがより効率的という場合もあります。これらの考え方に立ち、システム化の前にやっておくべき業務改革の視点や進め方をお伝えします。

システム化に頼らない効率化において考え得る2つのアプローチ

システム化に頼らずに効率化を果たすには、主に2つのアプローチがあります。1つは「同じ人員数でより多くの業務量を処理する」方法、もう1つは「同じ業務量をより少ない人員で処理する」方法です。
前者は、業務そのものに焦点を当てたアプローチです。まずは各業務を有効性・必要性の視点から評価し、「そもそも当該業務をやるべきか否か」という業務の要・不要を決めます。実施すべき業務については、その方法(やり方)を見直して改善方法を検討します。
後者のアプローチは、業務自体やその方法は変更せず、配置する人員の数を適正化することで効率化を図るものです。これは業務の効率化というよりは「職場の効率化」と言えるでしょう。

【図表】システム化に頼らない効率化において考え得る2つのアプローチ
システム化に頼らない効率化において考え得る2つのアプローチ
(出所)当社作成

業務の要・不要(そもそも当該業務をやるべきか否か)の検討

業務是非の検討では、業務の有効性・必要性を基に「やめられる業務」「省略可能な業務」を抽出します。当然のことながら、不要な業務をやめればその業務手順の見直しやシステム化は不要になります。そのため、最初に検討すべきポイントと言えます。
また、完全にやめられない場合でも、業務の簡素化や絞り込みを検討します。「そこまでやる必要はない」という範囲や深さを見極め、業務の手間やコストを減らします。この検討や実行は「過剰品質の是正」とも呼べるでしょう。

業務環境の変化に伴い重要性が薄れたにもかかわらず、いわゆる「慣性の法則」で続けられている業務や、過剰品質であると気付きながら「なんとなく」続けている業務は珍しくありません。例えば皆さんの周囲に以下のような業務は存在しないでしょうか。

  • チェックミスの影響が限定的にもかかわらず、詳細に全件チェックを行う業務
  • 経営方針の変化で意味を失った情報の収集や分析業務
  • 概算の数字で十分判断できるにもかかわらず、手間をかけて精緻な数字を算出する業務
  • 申請すれば必ず承認される決裁業務
  • 情報共有の名の下に、関与度の低い人まで参画する会議

仮に業務をやめる(省略する)、あるいは簡素化や絞り込みを行った場合、「何が・どのように・どの程度の影響があり、問題が生じるのか」を具体的に説明できない業務、あるいは説明しても有効性や必要性が低いと判断された業務は、全て検討や改善の対象になります。

業務方法(やり方)の見直し

業務方法の見直しと聞くと、細かな業務手順の洗い出しがイメージされます。しかしそれらは通常、業務を行ううちに一定の改善がなされており、既に効率化が進んでいるケースがほとんどです。そのため、効率化の余地は通常の業務手順以外で見いだされるという視点に立ち、以下の5つに着目して業務を見直すのが良いでしょう。

①イレギュラー業務の対策

イレギュラーな業務は効率を大きく低下させます。例えば、顧客や前工程の担当者が記入すべき情報がない、または間違った情報が記入されているなどがあります。これにより、各方面への問い合わせや対応に大きな手間がかかります。通常は問題ないものの、トラブルなど何かがあると途端に時間がかかります。その影響を最小限に抑えるという考えに立ち、イレギュラーな業務が発生する原因を分析し、根本的な解決策を探る、対応ルールを明確にする、前工程での原因発生数を担当別や状況別に可視化して防止策を講じる、といったことを進めます。

②コツやノウハウの共有化

同じ業務手順でも、担当者によって効率に大きな差が生じます。これは主に「コツ」「特定のノウハウ」と言われるknow-howやknow-whoの有無に起因します。例えば「このケースでは、□□に格納されている○○を参照するとすぐに処理できる」といった場面です。こうしたコツやノウハウを整理し、誰もが利用できる状態にします。

③迷わない状態の構築

迷いは時間の浪費を引き起こします。迷いやすい事項については、判断基準やロジックを明確にし、迷わない状態を作り出します。

④業務分担の見直し

業務の引き継ぎには、情報伝達漏れやタイミングのロスが起こり得るものです。業務は一気通貫できる設計が望ましいです。

⑤業務の集中化

専門スキルを要する業務、その逆で定型的で大量に処理するのに適した業務などを対象に、業務の集中処理を行います。

おわりに

業務効率化を図るアプローチは、システム化以外にも多岐にわたります。まずはこうしたアプローチを進められる対象業務を洗い出すことから検討したのち、本コラムで取り上げた5つの角度から検討することをおすすめします。
なお冒頭で述べたように、効率化には「同じ業務量をより少ない人員で処理する」という別のアプローチがあります。この点については、次回コラムで取り上げます。

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執筆者

  • 山田 喜宣

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    マネージャー

    山田 喜宣
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