システム化の前に取り組むべき業務改革(2)

2024/02/22 山田 喜宣
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業務改革
業務効率化

本コラムは「システム化の前に取り組むべき効率化」と題して、前回は「同じ人員数でより多くの業務量を処理する」方法と、「同じ業務量をより少ない人員で処理する」という2つのアプローチがあること、また前者の概要や実施する際の検討事項を取り上げました。今回は、もう1つのアプローチである「同じ業務量をより少ない人員で処理する」方法に焦点を当てます。

本アプローチの対象業務 ~業務には2つのタイプがある~

業務には「業務時間の決まり方」という観点から2つのタイプがあります。1つ目は業務時間が「決まる」タイプであり、これは主に定型的な業務が該当します。その内容から業務時間がおのずと決まる性格を持っています。2つ目は業務時間を「決める」タイプであり、主に企画や折衝などの非定型業務に関連しています。これらの業務はより高品質な成果を求めると業務時間が長くなる可能性があり、いわば「どこまでの品質や成果を求め、時間をかけるかを決める」業務と言えます。
この2つのタイプには、それぞれ異なる効率化の着眼点があります。本コラムでは前回同様に事務的な業務に焦点を当て、1つ目の「決まる」タイプを対象とします。

効率化の基本的な考え方

業務時間が「決まる」タイプを見直す際は、その業務時間に関する特性を利用して行います。この特性とは「業務担当者は無意識のうちに、与えられた時間をフルに使い切る」というものです。一般的な表現で言えば、「忙しい時は業務スピードが速くなり、余裕がある時は遅くなるため、与えられた時間をフルに費やす」ということです。トータルの業務時間は「業務1件あたりの時間×業務件数」で計算できるため、やるべき業務件数に合わせて1件あたりの時間が無意識のうちに調整されます。
つまり、こうした業務1件あたり時間の変動を抑えることに、効率化を実現できる可能性があります。要するに、無駄な時間が発生しないようにするのです。具体的には、標準的な業務1件あたりの時間を設定し、それに想定される業務件数を乗じて標準的なトータル業務時間(以下「業務量」)を定め、この業務量に見合った要員数を配置します。
よくあるケースとして、退職者の補充がされなかった職場で、当初は忙しかったもののいつの間にか従来通り、残業もなく仕事が回っている、ということがあります。元々過剰に配置されていた要員が適正化され効率化が実現した、と捉えられます。

ただしこのような効率化余地(余裕のある状態)は、職場の管理者にとっては気付きにくいものです。業務1件あたりの時間が多少延びても、通常通りの業務として見えることが多いためです。また仮に気付いたとしても、余分な要員が1人なのか2人なのかの判断は難しいでしょう。このため、職場の業務量を科学的に把握し、配置された要員との差を定量的に可視化することが必要になります。

適正な業務量の把握

業務量は前述の通り、「業務1件あたりの時間×業務件数」で算出可能です。しかし、その把握に際して「標準的な業務1件あたり時間」を設定するのは簡単ではありません。
通常、業務件数の設定は過去実績などを用いればそれほど難しくありません。時間の設定が難しい理由は、業務1件あたり時間が業務の条件に依存して変動するからです。事務的な定型業務であっても、例えば集計業務の時間は集計件数が多いと長くなり、少ないと短くなります。また「このタイプは手間がかかるか、簡単か」といった違いもあります。時間の設定には、これらの業務の諸条件を考慮する必要があり、難しいのが実情です。理論的には、これらの業務条件ごとに業務時間と件数を設定すればよいですが、それは現実的ではないため、以下の方法をおすすめします。まず、業務条件を「手間がかかる・普通:簡単」という3つのカテゴリに大別し、それぞれのカテゴリにおける標準的な時間と、業務全体に占める各カテゴリの割合を10%程度の単位で設定します。それらの数値を掛け合わせ、諸条件を包含した業務1件あたり時間を算出します。このようにして定めた業務量に基づき要員を配置すれば、無駄な状態が削減され効率的な業務運営が可能になります。

業務量のピーク/オフ対応

本コラムで紹介したアプローチを実行する際は、業務量のピーク時とオフピーク時の均等化の検討も重要です。業務は内容によって特定の月や月末に繁忙期が訪れることがあります。この状態を考慮しなければ、ピーク時の業務対応を前提にした要員配置になる可能性が高くなります。従って以下に例示するようなピーク時とオフピーク時の負荷を平準化する対策を講じることで、効率化を促進することが可能になります。

  • 担当者間や部門間で業務の分担を見直し、ピーク時とオフピーク時の負荷の「山・谷」を平準化する
  • 業務のタイミングに関するルールを変更する。例えば、月末に締め日がある業務を月の中旬と月末の2回締め日を設ける体制にすることで、ピーク時の負荷を低減する
  • ピーク時の業務を外部委託する
  • 集中処理を分散処理に変更する。業務を集中処理すると、ピーク時とオフピーク時の負荷の「山・谷」が大きくなるため、分散処理を検討する。例えば、経費精算業務を総務担当が一括して行うのではなく、各部員が行う体制に切り替える

おわりに

本コラムでは、システム化の前に取り組むべき業務改革の概要を説明しました。こうした視点を持つことで、「効率化と言えばシステム化」という単純なイメージにとどまらない、幅広い視点で業務改革にトライする可能性が広がるでしょう。

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執筆者

  • 山田 喜宣

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    マネージャー

    山田 喜宣
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