規格競争時代を生き抜く国際標準戦略の重要性

2007/04/16 吉本 陽子
ISO
知的財産

国際標準化をめぐる動向

「国際標準」という言葉を耳にする機会が増えている。ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)といった国際標準化機関でつくられる「国際規格」はデジュール・スタンダード(公的標準)と言われるのに対して、法的強制力はないものの事実上「国際規格」となっている規格はデファクト・スタンダードと言われる。マイクロソフト社のウィンドウズなどの製品が典型であるが、技術革新のスピードが速く、ネットワーク外部性の高いIT産業には多くのデファクト・スタンダードが存在する。なお、近年は手続きが複雑で「国際規格」とするまでに長い年月を必要とするデジュール・スタンダードを狙うのではなく、フォーラムやコンソーシアムで「国際標準」を獲得し、事実上のデファクト・スタンダードにしてしまおうという動きが活発になっている。

知的財産を組み込んだ国際標準戦略

ところで、2006年12月に知的財産戦略本部が「国際標準総合戦略」を発表した。これは、ある意味画期的なことである。たとえば技術標準の場合、誰もが公平にその技術を使えることで新規参入を促し市場の拡大を図っていくという狙いがある。つまり、標準とは本来は“非競争領域”なのである。
しかし、国際標準総合戦略は国際標準化にあたり知的財産を積極的に活用すべきと力強く打ち出しており、「特に先端技術分野においては、自社技術を標準化しつつ、市場における競争優位を確保するため、特許権等の自社の知的財産を適切に活用することも考慮する必要がある」としている。経団連も国際標準化団体のパテントポリシーが必要だと指摘し、複数の権利者が存在する場合はパテントプールがスムーズに運用される環境整備が必要との指摘を行っている。もはや、国際標準を公共財として悠長に構えている時代ではなく、高度な知的財産戦略と表裏一体で、かつ、高度な交渉能力を必要とする国家戦略として捉えていくべきステージに突入している。

事後標準から事前標準へ

「優れた技術・優れた製品ならば市場が受け入れる」という時代では無くなった。技術力そのものよりも、規格が市場を支配する時代となっている。一段レベルの低い技術が国際標準として採択されれば、それより優れた技術を市場から閉め出すことも可能になる。日本の技術力を脅威に思えば、国際標準を使って日本の技術を市場から排除することもできるのだ。だから、欧米をはじめとする海外では、官民挙げて国家戦略として国際規格づくりに邁進している。
さらに、かつては具体的な製品が開発された段階でISOなどの国際標準化団体に国際規格を提案する、いわゆる「事後標準」が一般的であったが、今は違う。具体的なモノがなくても規格を先に作り込み、国際標準とすることで先行してマーケットを押さえこもうとする、いわゆる「事前標準」が当たり前となっている。したがって、「国際標準総合戦略」でも研究開発段階からの国際標準化への取り組みが重要であるとの提言を行っている。最初から国際標準を視野に入れながら研究開発や技術開発を進めていかなければ、いくら優れた技術や製品を創り出してもマーケットからはじき出される可能性がある。

求められる経営者の意識改革

欧米勢優位の国際標準の戦いの中で、高度な技術的バックグラウンドを背景に、英語を駆使しながら、長丁場にわたる交渉の場で粘り強く、かつ戦略的に立ち回る「標準化戦士」の存在は世間的にあまり知られていないばかりか、彼らは自社内でも高い評価を受けているとは言い難い。国はようやく国際標準戦略の重要性を一線級で取り上げるようになったが、企業のトップの意識は遅れている。国際標準が美味しいビジネスだと気づいた巨大な隣国(中国)が本領を発揮する前に、経営者が国際標準の重要性を理解する必要がある。そうでなければ、日本は技術があっても世界の中で市場を失っていくことだろう。

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