業務革新とIT経営の重要性

2007/06/18 横山 重宏
デジタルイノベーション

かつて「IT化を進めれば、生産性が飛躍的に上昇する」とか、「新しいビジネスモデルではITが不可欠だ」といったIT万能型の議論が華やかに行われた。その後、ITバブルが崩壊し状況は一変した。現在でも大半の企業ではITに対して、重要とは考えていても効率化の一つの手段程度との認識のままいるのではないだろうか。
その間に経済学・経営学の世界では、IT化と生産性に対するに認識が大きく進歩してきている。以前には、経済指標を見る限りIT投資と生産性の関係が得られないという「生産性パラドクス」が存在し多くの研究者を悩ませてきた。それが近年の研究によって、企業が生産性向上を実現するには情報資産(IT資産)、業務革新、人材育成の相乗効果が必要であるとの認識が急速に高まってきている。つまり、経済指標で把握が難しい業務革新や人材育成を分析に織り込むことで、IT化と生産性の関係が明らかになるというものだ。
こうした考えを背景に、経済産業省では「IT経営力指標」を公表している。IT経営力指標は、単に情報システムの導入状況にとどまらず、経営戦略とIT戦略の立案とその融合、ITを活用した業務の可視化、企業内の複数システムの基盤の統一、経営とITの橋渡しを行うCIO(最高情報責任者)の設置とその機能、外部ベンダーの効果的な活用、IT投資の事前・事後評価、ITに関する人材育成などの業務全般にわたる要素から構成されている。さらに、こうした側面を総合評価し、企業のIT経営度合いを単に情報システムを導入しただけの第1段階から企業・産業横断的な最適化が実現している第4段階に分類している。
昨年末から本年にかけて日本、米国、韓国の企業に対して実施されたアンケート・ヒアリング調査結果をみると、米国企業では、企業全体の最適化が実現している第3段階以上の企業が過半数を占めるのに対して、日本企業の多くは、部門内での最適化が実現している第2段階の企業が6割近くと大半を占める。全社最適が実現している第3段階以上の割合は僅か26.1%に過ぎない。
日米のこの差はどこから来るのだろうか。また、日本の中で約4分の1を占める第3段階以上の企業とそれ以外の第2企業にとどまる企業では何が異なるのだろうか。その違いは、経営者のITに対する認識・姿勢の差に尽きる。第4段階に位置する企業経営者であっても必ずしもITに関する知見を十分持っているわけではない。しかし、ITが経営にどのようなプラスの影響をもたらすのかを、人任せにすることなく、経営者にもわかるような指標で提出させ、その理解に努めている。ITを崇拝することも見下すこともなく経営判断に使いうる一つの重要なツールに位置づけている。
一つの重要なツールであることを認識しているが故に、業務革新においてITを最大限に活かし、さらに、それが最大限機能するように人材育成を行う。そこで重要な役割を担うのが経営とITの橋渡しを行うCIO(最高情報責任者)である。CIOには経営マインドが強く要求されるが、同時にITに関する高い知見も求められる。さらに、そうした経営とITの橋渡しとなる人材をステージ4の企業では育成しようとしている。人材育成なくしてITは経営に効果を及ぼさないといえよう。
(参考)企業のIT経営力について:
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70124b05j.pdf
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g70404a05j.pdf

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