北欧の地方財政調整制度に学ぶ

2008/08/11 大野 泰資
北欧
地方自治体
地方
財政

地方分権の先進国として知られる北欧諸国では、財政調整制度については、国の財源によって行う垂直的調整と、地方自治体間で行う水平的調整の両者の考え方が取り入れられている。また、財政調整は、さらに、歳入面での調整と歳出面での調整に分かれる。本稿では、スウェーデンを例に、地方財政における財政調整制度の継続可能性の条件について考察したい。
スウェーデンでは、1996年度から2004年度までの制度では、県は県同士の間で、市町村は市町村同士の間で、住民一人当たりの課税所得額が全国平均値を超過している地方自治体からの拠出金を原資にして、住民一人当たりの課税所得額が全国平均値を下回る地方自治体に対して、地方自治体間で水平的に財政調整が行われていた(歳入平衡交付金)。また、歳出についても同様に、構造的要因によって、住民一人当たりの歳出額が平均値を下回る地方自治体からの拠出金を原資にして、住民一人当たりの歳出額が平均値を超過する地方自治体に対して水平的に財政調整が行われていた(歳出平衡交付金)。歳入平衡交付金、歳出平衡交付金には、国庫からの支出が含まれていないため、国による地方の財源保障機能はなく、財政調整機能に特化したものとなっていた。
これに対して、2005年度以降は、国からの一般交付金による財源保障役割が大きくなっている。この背景には、水平的財政調整制度により常に拠出超過になる大都市富裕自治体の不満を緩和する一方、財政力の乏しい僻地の財政力を確保するという目的があった。歳入面では、住民一人当たりの課税所得額が、「全国平均値×115%」を超過している市町村(注1)からの拠出金は、国税から拠出される一般交付金とともに一体化され、まとめて歳入平衡交付金として基準値未満の地方自治体に交付される。一方、歳出面での財政調整は、従来の考え方が、ほぼ踏襲されている。なお、一般交付金は、国から地方自治体へ交付される垂直的財政調整としての一般補助金であり、地方自治体間の平衡交付金と異なり、地方自治体間からの拠出はない。
平衡交付金制度は、ストックホルム市など、常に交付金を拠出する側に回る地方自治体からは、「ロビンフッド税」と呼ばれ、評判が悪い。一部に留保分があるとは言え、税収増加のかなりの部分を拠出しなければならないので、富裕自治体の経済成長や増収努力を阻害するといった意見もみられる。
このような不平不満を抱えつつ、また、変更が加えられつつも、平衡交付金制度が継続している背景として、国民はどこの地方自治体に居住しても、同等の費用負担で同等の行政サービスを受けられるべきである、という公平感覚が国内に存在すること、並びに、実際にそれがある程度達成されている、ということが指摘されている。しかし、筆者がそれ以上に注目しているのは、スウェーデンでは、そもそも地方歳入に占める地方税収の割合が、県・市町村とも平均で約70%にも達していること、一般補助金の割合は高々6~8%程度に過ぎないことである。財源面での地方分権を前提にした上での地方財政調整制度となっているところに、制度持続の鍵があると思われる。地方税収により地方財源が確保されていれば、その上での地方財政調整は、一部の富裕自治体からの不満は残るにせよ、受容され易いと解釈できるのではないだろうか。

(注1)県の場合、この水準は、平均値×110%となっている。

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