「社会保障と税の共通番号」は導入できるか?

2010/02/15 大野 泰資
社会保障制度

共通番号の議論がスタート

2010年2月8日、国家戦略室に設置された「社会保障と税の共通番号制度」に関する検討会の初会合が開催された。年内には制度の方向性を定め、2011年には関連法案の提出が予定されている。今回の特徴は、これまで個々に検討されていた「納税者番号」や「社会保障番号」を一体的に検討しようという点に見られる。
本稿では、現政権で検討されている「社会保障と税の共通番号」(以下、「共通番号」と呼ぶ。)を円滑に導入・定着させるために必要な措置を考察してみたい。なお、先行資料の蓄積状況から、納税者番号制度を中心に議論を進める。

納税者番号とは何か

これまでの納税者番号制度の議論をリードしてきた政府税制調査会の資料によれば、納税者番号制度とは、納税者に対して唯一つ(unique)の固有の番号を付与し、
「(1)各種の取引に際して、納税者が取引の相手方に番号を告知すること、(2)取引の相手方が税務当局に提出する資料情報(法定調書)及び納税者が税務当局に提出する納税申告書に番号を記載すること、を義務付ける仕組みである。これにより、税務当局が、納税申告書の情報と、取引の相手方から提出される資料情報を、その番号をキーとして集中的に名寄せ・突合できるようになり、結説者の所得情報をより的確に把握することが可能となる」と定義されている。 (http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/pdf/21zen14kai15.pdf

諸外国における納税者番号

諸外国における納税者番号の導入は、1960年代末から1970年代にかけて第一波があり、その後、IT利用が飛躍的に整備された1990年代半ばから現在に至るまでが第二波となっている。OECD諸国では、2009年にドイツでも導入が始まっている。
番号は、元々「納税者番号」として導入された場合と、「住民登録番号」や「社会保障番号」を納税面にも活用するようになった場合に大別され、現在では税務のみに用いられているケースは少数派であると言える。また、行政手続きや政府サービス申請上の利用にとどまらず、法律上は納税者番号の提示が必要とされていない場合であっても、民間取引においては、身分証明書代わりに提示が求められることが慣行になっているケースも多い。

不信・不安への対応策

納税者番号(共通番号)の用途が広がるにつれ気になるのが、自分の番号を他人に不正利用されたり、個人の所得のみならず病歴や犯罪歴などの個人情報が政府に一元的に把握されたりするのではないか、またその漏出が起こるのではないか、という懸念である。
実際にカナダでは、発行審査の甘さにより人口よりも多くの番号が発行されていたり、銀行口座開設の際に番号を提示することが慣行となっていることから、他人の番号を不正に取得し、それを組織犯罪(主としてマネーロンダリング)に利用する等の問題が起こっていた。これらの問題点は会計検査院からも指摘され、発行プロセスを厳格化したり、発行省庁側から国民に対して、番号の保管や利用に伴う「行動規範(Code of Practice)」を発行したりするなどして注意を促している。
一方、個人情報の保護については、多くの国では納税者番号(共通番号)を利用する行政機関が利用目的に沿った情報だけを省庁ごとに管理し、省庁間での個人情報のやりとりは、捜査当局等からの申請がない限りはできない仕組みを構築している(分散管理とファイヤーウォールの設定)。すなわち、国民に不安の多い「一元管理」を行わない方針を示している。

国民の納得感が鍵

税務の効率性・公平性の向上に異論を唱える人は誰もいないが、わが国で共通番号を導入してこれらの目的を達成しようとするとなると、番号導入により発生が懸念される事項について、国民が納得する措置・説明を提示できるかどうかが鍵となる。結局のところ、諸外国の例からは、納税者番号(あるいは共通番号)が社会に定着するかどうかは、国民が番号の利用範囲やプライバシー保護の仕組み、不正利用防止策について、どこまで信用するかにかかっているためである。
なお、納税者番号(共通番号)は、個人所得の名寄せを効率化するが、俗に「クロヨン」と呼ばれる職業によって所得捕捉率に差のある状況を改善するためには、正しい申告を促すインセンティブを与えたり、取引相手から税務当局への情報提供を強化したりするなど、共通番号自体の導入とは別の取組が必要であることにも留意しなければならない。

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