九州新幹線開業を直前に控えて

2011/01/31 原田 昌彦
運輸・交通

昨年12月4日の東北新幹線八戸-新青森間開業に続き、3月12日に九州新幹線博多(福岡)-新八代間が開業し、同新幹線鹿児島ルート(博多-鹿児島中央)が全通する。1964年の東京-新大阪間の開業以来、半世紀近くを経て、新幹線は青森から鹿児島まで貫通することとなる。
これまでの新幹線整備では「東京直通」が重視されてきた。まず、東海道・山陽新幹線が東京から新大阪、岡山、博多と順次開通し、次いで、東北・上越・北陸(長野)の各新幹線が東京から放射状に建設された。正確には新幹線でなく「新幹線に直通する在来線」である山形・秋田の各新幹線も含め、東日本を中心に「東京直通」の新幹線網が形成されている。
これに対し、九州新幹線は、東京に直通しない唯一の新幹線である。一部の列車は山陽新幹線新大阪まで直通運転されるため、近畿~熊本・鹿児島方面の航空輸送からの転換も想定されるが、主な輸送対象は、福岡発着を中心とする九州域内の人の移動になると考えられる。「東京直通」でない新幹線がどのようなインパクトをもたらすのか注目である。
九州新幹線でもう一つ注目すべき点は、他の交通手段との関係である。九州では、福岡を中心とした鉄道網と高速道路網が形成され、鉄道(主に在来線特急)、高速バス、マイカーが競争関係にある。特に、在来線特急と高速バスの熾烈な競争の結果、路線の新設・増発といったサービス向上と運賃低下が進み、利用者が増大し、交通市場が拡大するという好循環が生じている。
例えば、福岡~熊本間の場合、高速バスが10~20分間隔、在来線特急が毎時3本と、都市間輸送としては極めて多頻度で運転されている。所要時間は高速バスの約2時間に対し、鉄道(特急)は1時間15分だが、福岡・熊本とも中心市街地が鉄道駅からやや離れているため、中心市街地間の移動時間は大差なく、しかも高速バスは乗り換えが不要である。運賃は、いずれも4枚つづりの回数券が発売され、高速バスは1枚あたり1,600円、在来線特急は2,000円である。福岡~佐賀、長崎、大分等も同様の状況にある。
このような交通手段間の競争においては、公正な競争が可能な環境(いわゆる「イコールフッティング」)が整備される必要がある。鉄道や道路の整備には大規模な投資が必要であり、補助金や税制優遇等、さまざまな形で公的な支援がなされているため、公正な競争環境の実現に向けて、特に注意を払う必要がある。
一方、九州新幹線等の「整備新幹線」の建設にあたっては、鉄道事業者は受益の範囲を限度として費用を負担し、それ以外の部分を国と地方自治体が2:1の割合で負担することになっている。先行開業している九州新幹線(新八代-鹿児島中央)の場合、建設費6,290億円に対し、JR九州の支払う貸付料は年額20.4億円と設定されており、建設費8,920億円とされる博多-新八代間も含め、新幹線建設は多額の公的負担のもとで行われる。こうしたことから、九州新幹線の建設は、所要時間の大幅な短縮のみならず、交通施設整備に対する公的な支援という点で、交通手段間の競争環境を大きく変えることとなる。
さらに、高速道路については、「休日普通車上限1000円」等の各種割引制度や「無料化社会実験」が、公的な費用負担のもとで行われており、特に「休日1000円」は広域的な交通流動に大きな変化を生じさせている。
このほか、高速バスについては、「ツアーバス」と呼ばれる募集型の割安な都市間バスが急成長している。従来の高速バスが、定時定路線でダイヤどおりの運行が義務づけられる「路線(乗合)バス」であるのに対し、ツアーバスは「貸切バス」であるため、利用者が多い日・時間帯だけ運行してもよく、路線バスと比較して割安な運賃を設定できる。両者が公正な競争環境にあるのかについても、検討の余地がある。
このように、九州新幹線は、交通手段間の競争関係にさまざまな変化が生じる中で開業する。「イコールフッティング」の問題は、1990年代後半~2000年代初頭に需給調整規制の廃止を中心とする交通分野の規制緩和が進められる中で議論されたが、整備新幹線の開業や高速道路料金制度の変更等が相次ぐ中で、CO2排出量の削減をどのように実現していくのかという観点も含めつつ、改めて基本的な考え方を整理する必要があるものと考えられる。

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