「次世代を担う農業者」教育は転換するか

2019/06/03 鈴庄 美苗、髙原 悠、村上 聡江、福塚 祐子
農林水産
教育

農業の専門的人材を育成する農業者教育。この農業者教育の一層の推進を目指し、2019年に新たに始まった「専門職大学制度」の活用を考える自治体が各地に広がりつつある。本稿では、農業分野における専門職大学制度をテーマに、マーケット分析やニーズ把握を通じた事前準備の必要性、新制度活用の是非の見極めについて、論点整理を行いたい。

1.農業者教育における専門職大学化の動き

2017年3月、学校教育法の一部を改正する法律案が閣議決定し、同年5月に成立・公布されたことに伴い、2019年4月より「専門職大学」及び「専門職短期大学」が創設されることとなった。専門職大学等の制度化にあたっては、教育再生実行会議第5次提言「今後の学制等の在り方について」(2014年7月)において、「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関」の制度化が提言されて以降、検討が活発化し、「まち・ひと・しごと創生総合戦略(改訂版)」や「日本再興戦略(改訂2016)」、「経済財政運営と改革の基本方針」、「働き方改革実行計画」においては、制度化に向けた記述がなされてきた1。このように、教育分野における検討にも加え、「産業競争力強化」や「地方創生」、また「働き方」といった観点からも、専門職大学の制度化に向けて検討が進められてきた背景がある。

こうした検討経緯を受け、農林水産省においては、「次世代の農業経営者育成キャリアパスを明確にするため、農業大学校の専門職業大学(仮称)化を推進する」との記載が農業競争力強化プログラム(平成29年11月決定)に記載され、文部科学省の検討状況を踏まえた上で、農業系の専門職大学化に向けた動きを後押ししていく姿勢を示している。こうした状況を受け、各地域において農業大学校の専門職大学化に向けた検討が進められている。そのうち、静岡県では、2017年5月より静岡県内の農林業経営者や高校関係者、県内外の有識者を構成員とする検討委員会を立ち上げ、基本構想及び基本計画の策定を行い、2020年4月の開学に向け、2018年10月に文部科学省に対して設置認可申請書を提出した。また、山形県においても、2019年度予算に「明日の農林業を担う専門職大学構想推進事業費」を計上し、農業分野に関する専門職大学の設置に向けた各種調査や策定委員会の設置を予定しているところである。(詳細は図表3参照。)

このように、各地域において、農業分野に関する専門職大学の検討が進められているところであるが、一方で農業分野に限らず、専門職大学の設置にあたり、大学設置・学校法人審議会大学設置分科会長より、平成31年度開設予定の専門職大学等の設置審査結果に対して図表1のような指摘がされている。その中では、「多くの申請案件において、制度創設初年度であるものの、総じて準備不足で法人として大学設置に取り組む体制が不十分と感じられた」との指摘がなされているところである。実際に、2019年度開設予定の専門職大学の設置認可に向け、17件の申請がなされたが、設置認可を受けた学校は3校(専門職大学2校、専門職短期大学1校)であり、専門職大学の設置にあたってのハードルの高さがうかがえる。


1 地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議 第3回(平成29年7月26日)資料6「専門職大学・専門職短期大学の制度化について

図表1 申請案件に対する指摘事項(抜粋)

・専門職大学の特色である実習の内容、評価基準、実施体制の検討が不十分である
・申請されている実務家の教授等が優れた実務上の業績がない者である
・実践的かつ創造的な専門職業人材の専門性の支えとなるべき理論の教育が不足している等の大学教育としての内容・体系性が不十分である
・教育課程連携協議会の構成員が不適切である
・「実践の理論」を重視した研究を行う施設・設備が整備されていない

出典)文部科学省ホームページ「専門職大学等の審査結果について」より三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

指摘された内容は、「実践」「専門性」という特色を踏まえたカリキュラム内容の不十分さや、実務家教員の不足といった実施体制の不備等、「基本計画」の実装に向けた段階の指摘である。文部科学省への申請・認可までの流れは、図表2のとおりだが、こうした基本計画の実装段階での指摘の背景には、「基本構想」の立案段階における課題があったとも推測できる。つまり、基本構想の前段階で、そのエリアのマーケット、(学生、保護者、産業界、行政機関、既存の教育・研究サービスを提供する教育機関や研究機関等といった)ステイクホルダーのニーズを十分に調査・分析できていなかった可能性も推測できる。
設置したい学問分野を取り巻く環境やマーケットを踏まえた上で、国全体、あるいはそのエリアで必要とされ、育成できる人材像について、ステイクホルダー間で共有していくことが重要となるだろう。また育成すべき人材像の設定・共有に当たっては、入学対象となる学生や保護者のニーズ、また卒業後の就職先となる産業側のニーズを調査・分析することが必須となる。
農業分野に特化した課題としては、既存の農業関係の学校からの就農率は必ずしも高いとは言えない状況2にあり、(教育機関ごとに課題の深刻さには幅があるが、)「既存の教育プログラム」と、「就農」との接続が課題の一つとして挙げられる。例えば、東京農業大学の平成29年度卒業生の卒業後の進路を見ると、全体の約7割が就職、さらにこの内の農業への就職は1割にとどまる。 3つまり、農業に専門性を持つ大学であっても、15人に1人しか就職先として農業を選択していない。また、農業高校については、直接の進路として就農を目指す者は、33人に1人である。これまでの教育プログラムと就農が、必ずしも結びついておらず、生徒・学生側や保護者側が求める教育プログラムについて、改めて個別に確認する必要性がうかがえる。
他方、産業側や政策立案側では、農業者の後継者不足は最も重要な課題である。青年新規就農者の少なさと、新規就農者の定着率の低さ4といった状況を踏まえ、長年、新規就農支援や担い手育成には全国各地で積極的に取り組まれてきたところであるが、十分な成果が出ている取組ばかりとは言えない。
しかし、農業分野を取り巻く外部環境は著しく変化している。流通形態・取引形態の急激な変化や、生活スタイル及び消費者の志向の変化に伴い、農業者は自らに合った商品・販路等を選択できるようになるとともに、生産技術のみならず、商品開発から営業、経営等多様なビジネススキルが求められるようになっている。
このような中で、次世代の農業の担い手となりうる青年層の育成に向けて「農業者教育」への改善の動きが見られはじめている。 5今こそ、学校を設置し政策を立案する側でもある自治体や、その自治体に学校設置の要望を行う産業界といった、教育プログラムを作る、提供する側と、潜在的な次世代の農業の担い手も含めた雇用される側といった教育プログラムを受ける側との間に存在した「農業者教育」に求める「微妙なニーズのずれ」を調整・共有するタイミングにあると言える。
このニーズのずれを正確に把握し、外部環境等の変化を捉えた「求められる知識・技能といった、育てるべき人材像」を打ち出していくことが、非常に重要となる。そのためには、十分なマーケットやニーズ調査は不可欠と言える。
そこで、今回は、基本構想立案段階について、行うべき調査・分析内容について論点の整理を行いたい。


2 平成29年度農林水産白書等によれば、平成28(2016)年度卒業生の農業高等学校からの就農率は3.0%であり、農業大学校等へ進学した者の割合は4.1%に留まっている。また、道府県農業大学校からの就農も約60%となっている。
3 東京農業大学HP(2019年5月30日調査時点)
4 「人材の育成・確保に関する資料」(農林水産省2014年)によれば、農業就業人口は15年間で4割減少しており、農業者の平均年齢は約66歳となっている。また、新規就農者のうち39歳以下の青年層は毎年1万人~1.5万人と40歳以上4万人に比べて少なく、更には新規就農者の約3割は生活が安定しないことから5年以内に離農している。
5 平成29年5月には「農林水産業を学ぶ高校生の就農・就業に向けた人材育成について」という文部科学省・農林水産省の連名の通知が発出されている。この通知では、農業高校生の就農意欲を喚起し、チャレンジ精神のある農業経営者となり得る卒業生の輩出をめざし、各種取組の推進を行うこととしている。

図表2 専門職大学開学までの流れ(概略)

2.【準備その1】マーケットを知る

前述のとおり、農業分野を取り巻く外部環境が大きく変化する中、経営管理も含めた専門的知識や生産性向上への対応力をもつ人材育成が課題の一つとなっている。このことは、農林水産省だけでなく、農業の成長産業化を目指す自治体が共通して抱える課題だと推察される。また、農林業経営者の養成における中核的な教育機関として農林大学校を設置している道府県(国内42の道府県)でも、農業分野を取り巻く外部環境の変化を受けて、農林大学校の一層の活性化を目指している。
農林大学校の一層の活性化の流れとも関連して、前述のとおり、2019年現在では、静岡県立農業環境専門職大学が設置構想中である。図表3のとおり、2019年4月から新たに創設された実践的職業教育を行う高等教育機関である、専門職大学について、設置構想を持つ都道府県が複数確認できている。農業政策を所管する行政機関を中心に、農業における専門的人材の確保は重要な課題になっていると言える。図表3を見ると、経済団体や農林水産業関係団体からも専門職大学の設置を求める声もあり、行政機関だけでなく、産業界からも、農業分野における専門的な人材の確保を求めていると言えよう。

図表3 各自治体における農業系専門職大学の検討状況

自治体名 専門職大学に関する検討状況
静岡県 2017年5月より静岡県内の農林業経営者や高校関係者、県内外の有識者を構成員とする検討委員会を立ち上げ、基本構想及び基本計画の策定を行い、2020年4月の開学に向け2018年10月25日に文部科学省へ設置認可申請書を提出。
山形県 県内の農林水産業関係団体や最上地域8市町村などの有志41団体で組織した専門職大学設置に関するロジェクトチームでは、2019年2月に山形県知事に対して早期設置に向け要請を行った。要請等を踏まえ、山形県では2019年度予算に「明日の農林業を担う専門職大学構想推進事業費」を計上し、専門職大学設置に向けた各種調査や策定委員会の設置を予定。
高知県 2017年度知県東京事務所のミッションとして、「国が31年度に制度化を予定している農業大学校の専門職業大学化に関する国や政府の動向及び他県の取組状況の情報収集を行う」としており、その成果として、先進県の調査実施のほか、中央審議会、専修学校教育研究協議会、専門職大学の制度化に関する説明会等の情報収集を行い、農業大学校の充実・強化策の検討の参考とした。
福岡県 福岡県農業大学校における2017年度外部評価実績において、新たな取組として「専門職大学への移行を検討する」ことが盛り込まれており、移行に向けた研究等を実施。
宮崎県 宮崎経済同友会では、農業やIT等の成長分野で即戦力の人材育成を目指す「専門職大学」の設置を求める意見書を2017年6月末に県と県議会に提出。
北海道 2017年6月、北海道知事が定例道議会の一般質問において、「道立農業大学校の研修教育機能の強化に向け、その役割や使命を一層発揮できるよう(専門職大学化を)検討していく」と答弁。

出典)新聞やウェブ情報等の公開情報をもとに三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

しかし、公表情報ベースで見ると、産業側や行政機関側からのニーズに基づき検討が進んでいるようにも見え、学生側や保護者のニーズに基づく検討が行われている様子が一見できず、マーケットのニーズに基づく検討が行われているどうかということ自体が、対外的に発信されていないように見える。この状況を踏まえると、教育プログラムを受ける側である学生、あるいはその意思決定に影響力を持つ保護者が関心・ニーズを持つ専門的な農業系教育機関とはどういったものか、調査分析をする必要があるだろう。
さらに、現在の農林大学校の運営主体が、自治体(行政機関)であることも、なるべくバイアスのかからない「中立的」「客観的」なマーケット調査を必要とする要因である。つまり、農業の専門的な担い手を必要とする行政機関自身が専門的な農業系教育機関の設立を考え始めた際には、設置という結論ありきではなく、「中立的・客観的」に、十分なマーケットがあるかを把握すべきだろう。
マーケット調査・分析に当たっては、①市場規模(全体のパイ)の把握、②競合状況(パイの分配状況)の把握という大きく2つの観点から農業系教育分野に関する基礎的データの収集・分析を行うことが考えられる。図表 4のような調査項目を設定し、既存のデータもしくは新規追加調査を実施することが必要となるだろう。

図表4 マーケット分析の項目(例)

マーケット分析の観点 調査項目(例)
市場規模(全体のパイの把握) 18歳人口の動向、将来推計
余剰農地の立地、状況、将来推計
有効求人倍率、新規就農者数(前職の内訳)
高校生の進学・就職状況、就農希望者数
農業高校・農林大学校等の卒業生の就職状況、就農希望者数
高校生・保護者の進路選択の意識・意向
高等教育機関全体への社会人入学の動向(リカレント教育の状況)
当該自治体独自の強みを生かした農業サービスの状況
当該自治体の6次産業化の進捗と今後の見込み
競合状況(パイの分配状況) 当該自治体における農林業教育機関の入学者、教育内容・特色、卒業生の状況、今後の計画(農林大学校、農学系大学、農業系専門学校 等)
当該自治体における農林業以外の専門高校や高等教育機関の定員充足率や、学部(学科)設置・改編の動向
近隣自治体における農林業教育機関の入学者、教育内容・特色、卒業生の状況、今後の計画
日本農業経営大学校の入学者、教育内容・特色、卒業生の状況、今後の計画
全国の農業系専門職大学の立地状況、教育プログラム・特色

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

3.【準備その2】ステイクホルダーのニーズを知る

ステイクホルダーが求めている農業人材や農業人材の育成の在り方は、前述のとおり、時代によって変容し、ステイクホルダーごとのニーズを調整・共有することは必要となるだろう。農業専門職大学の場合、大学の設置目的や設置するエリアの農業を取り巻く現状を考慮した上で、ステイクホルダーの整理を行い、各対象にアンケート調査やヒアリング調査を実施することが望ましい。ステイクホルダーには、入学志願者となり得る高校生や保護者、さらには、学び直しを希望する就農者等の社会人、JA、地域農業者、農業および食産業の関連事業者、農業者教育の振興を目指すアカデミア等が想定される。そのうち、アンケート等で広く個別のニーズ調査を行うことが望ましいのは、大学進学を検討中の高校生に対する入学希望者層および潜在ターゲット層の抽出、カリキュラム策定等に活用可能な学生が求める学習内容の把握である。加えて、連携可能性のある関連事業者が求める専門職大学の在り方、卒業後の進路となり得る農業・食産業事業者が求める知識・技術を持った人材を輩出できるかという視点を持ちながら、鍵となるステイクホルダーを対象に調査を実施することが重要である。
例えば高校生に対してアンケート調査を行う場合には、以下のAIDMAモデルを活用することも出来るだろう。農業専門職大学への潜在的な入学希望者が進学という行動に進むためのボトルネックや、その具体的な属性や要因を把握することで、学生獲得のための課題や学生の中のターゲット層がより詳細に把握出来ると考えられる。

図表5 就農につながる学生獲得に向けたAIDMAモデル

注釈)AIDMA(アイドマ)とは、広告宣伝に対する消費者の購買(行動)決定までの心理プロセスを示すモデルの一つ。
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

 

AIDMAモデルを意識しながら、実際に高校生に対するアンケート調査項目を設定する場合の大項目は図表6のとおりである。

図表6 高校生に対するニーズ調査項目(例)

大項目 項目設定の視点
回答者属性(基礎情報1) ・性別等の基礎情報や所属学科、農家/非農家の出身等の属性による②~⑥の傾向を分析
高校進学時の関心事項
(基礎情報2)
・中学時点での農業関心層の把握と、高校在学中の農業経験による③~⑥の傾向の違いの把握
今後の進路希望・予定 ・進学先決定時期の把握により効果的なアプローチ時期を検討
・進学先選択にあたり重視する点の把握により専門職大学のカリキュラム及びその他の施策について検討
農業分野への進学に関する関心 ・農業分野で関心がある内容を具体的に把握し、専門職大学で提供できるリソースを検討
・関心がない場合、その理由を把握(関心はあるが消極的な理由で選択できていない場合、専門職大学において問題を払拭できないかの検討)
専門職大学への進学に関する意向 ・専門職大学の認知度やどのような点に関心がもたれているかを把握
・専門職大学に求められる機能と、専門職大学に進学する決め手となりそうな要素を抽出
将来の就業意識 ・将来の就業(農以外も含む)意向や居住希望地域を把握
・各地域において将来の農業経営を担う人材候補の発掘・活躍のために専門職大学が提供できる機能・カリキュラムの検討

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

 

4.【準備その3】持続可能な枠組み候補を知る ~持続可能な「次世代の農業者教育」の見直しへ~

準備その1で中立的・客観的・長期的な観点からマーケットがあることを確認し、準備その2で各ステイクホルダーにニーズがあり、調整・共有化できた後に、そのマーケットの中で、いかにして「持続可能な教育機関」を設立し、継続する基盤を整えるかということの検討を本格化することとなるだろう。
ここまでは、昨今注目の集まる専門職大学を中心に論を進めてきたが、「次世代の農業」の担い手を作る、農業者教育は、必ずしも専門職大学制度でなければ実現出来ないというものではないだろう。
例えば、農業大学校(農大学校、農林大学校、農業短期大学校含む)のミッションも、図表7のとおり、経営志向を掲げており、国際的な視点も取り入れながら実践的・専門的な教育の実現を目指している。
農業系の専門職大学は、国内初として静岡県でスタートしたが、農業大学校のミッションと比較すると、一見して必ずしも大きく違いがあるものではない。

図表7 農業大学校の学校目標や主な特徴と農業専門職大学のミッションとの比較

学校目標(学生募集時のミッション) 主な特徴
A農大学校 ①農業に関する知識及び技術と経営能力を修得させる
②社会経済情勢に対応し得る応用力とたくましい実践能力を養う
③地域農業の中核的担い手となり得る農業経営者及び農業を支える多様な人財を養成すること
アドミッションポリシーの1つに、就農を予定し、自ら地域農業を支える志を持つ人を掲げる。また、ディプロマポリシーに1つにビジネス感覚を兼ね備えた経営管理能力の修得を掲げている。 入学者募集のためのPR動画を作成している。 一般人向け短期研修も実施。
B農業大学校 実践教育、先進教育、全寮教育の3つを軸に掲げ、農業経営科も開設 農業経営科も開設。海外農業研修や国際農業なども履修可能。
C農業大学校 ①大志を抱けBe Ambitious
②世界的視野で地域を考えよ Be Glocal
③自然環境と調和せよ Be Ecological
アグリビジネス学部を設置し、農家レストランの開業計画や販路拡大のための調査などをプロジェクトとして実施
D農林大学校 ①高度で実践的な技術の習得
②企業的経営感覚の養成
③国際化・情報化時代の担い手
④寮生活を教育の特色
林業経営学科を新設し学校名を改称(H28) 農業者向けの各種研修制度も実施
E農業短期大学校 ①農業経営の実践に必要な知識及び技術に関する教育
②地域をリードする農業経営者に必要となる経営管理に関する教育
③国際的な視野に立ち農業情勢の変化に対応できる農業経営に関する教育
アグリカレッジと称し、農業経営の実践を学ぶ教育を平成27年度より深化させている。(経営シミュレーションの手法も取り入れた総合的な農業経営を実習) 流通・販売分野の教育の強化や、海外農業研修、進路教育の充実などを行っている。(国際化に対応した幅広い視野の習得)
静岡県立農林環境専門職大学(仮称)等 耕土耕心の理念のもとに、多くの実習を行い、農林業のプロフェッショナルを養成
人々の食やくらしを支え、新たな可能性が広がる農林業の、あらゆるシーンに対応できる力を養う
全国初の農林業分野の専門職大学で現在2020年4月の開学に向け、構想中

出典)出典)各農業大学校HP等から三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社作成

実践の支えとなるべき理論が体系だった大学教育水準まで必要があるのか、むしろ実践性や機動性を重視すべきものなのか。これは、各エリアの置かれたマーケットやステイクホルダーのニーズによって異なるだろう。
そのエリアで実現したい「ミッション」や「専門性」、「実践」を具現化していくことで、専門職大学が適切か、4年制農業系学部を持つ大学が適切か、農業大学校が適切か、その他の選択肢が適切か、「見極め」をすることになるだろう。特に高等教育機関全体を取り巻く状況は、定員未充足の大学も一定数あり、地方中小私立大学の収支状況は約半数が赤字傾向にある。6「高等教育機関」として設立する場合は、マーケットの厳しさも十分踏まえなければならないだろう。
また、現状の農業高校や農業大学校卒業生は、ファーストキャリアとして就農を選択していないことにも、注意を払う必要があろう。また、農業者が営農をしながら体系的に経営を学ぶ場として、2017年度に、農業大学校等が運営主体となり21県で農業経営塾が開講されている7 。このような動向も踏まえると、専門職大学をはじめとする専門的で実践的な教育を提供する教育・研修機関は、18歳ごろの学生を中心的な対象とするだけでなく、リカレント教育の場としても、今後一層大きな役割を果たしていくこととなるだろう。このように、拡大したいターゲット層をどこに設定するかということも、その各エリアの置かれたマーケットやステイクホルダーのニーズによって判断・見極めされるべき事項だろう。 いずれにしても、この見極めには、準備1 マーケットを知る、準備2 ステイクホルダーのニーズを知る、という観点で、調査分析をすることが重要になるのではないだろうか。

以上


6 私学行政の現状と課題等について(平成30年8月)文部科学省
7 平成29年度農林水産省白書

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