物流の2024年問題への対応を下支えする高速道路ネットワーク長距離輸送の輸送時間、荷待ち時間短縮で持続可能性を向上

2024/03/29 水谷 洋輔、宮下 光宏、右近 崇
働き方改革
持続可能
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物流・ロジスティクス

“モノが届く”を支える長距離トラック輸送

注文したモノが翌日や翌々日にすぐ届く、あるいは指定した日時にきちんと届くといった日々発生する物流に対するニーズが満たされることで、我々の生活の質が向上し、企業活動においても大きな支えになっています。そして、こうした物流の一翼を担っているのが地域間の輸送を担う長距離トラック輸送です。生活面では通信販売で注文した商品が手元に届く過程で、商品の生産地から消費者の近くの物流拠点までは長距離トラック輸送が物流を担っています。また、製造業など広域にサプライチェーンを構築している企業では、長距離トラック輸送が日々の生産活動に必要な部品等の配送を支えています。統計をみても、関東、中部および近畿を中心に、全国に長距離の物流が発生していることが確認できます。

主な地域間流動

物流業界が直面する2024年問題

我々の社会経済活動を支えている長距離トラック輸送ですが、トラックドライバーの労働環境の改善を目的として時間外労働を年960時間に制限する改正法が2024年4月に施行されることにより、労働時間が制限されます。労働環境の改善が期待できる一方で、労働時間の削減によるドライバーの収入減少や運びたくても運べないという業務機会の逸失により、物流企業に利益の減少が起こるなどの影響が懸念されています。これによって慢性的な人手不足にある物流業界では必要なリソースが不足し、これまでのようにはモノを運べなくなる恐れがあります。“我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議”がとりまとめた“物流革新に向けた政策パッケージ [ 1 ]”によると、2030年にはトラックドライバー34万人相当の輸送力が不足すると推計されています。一方で、改善に向けてはトラックの荷待ち・荷役の時間を平均4分削減すると、トラックドライバー1万人分の輸送力改善が見込めるとされています。通常、トラックドライバーは、運搬途中に起こる渋滞などに備え、余裕を持って出発し、早く到着した場合には指定時間まで待機する“荷待ち時間”が発生します。特に、運搬時間が長時間となる長距離トラック輸送においては、労働時間の上限規制によって2人以上で配送を行う中継輸送など、人数を増やしての対応も必要となってきます。こうした“荷待ち時間”削減のため企業の自助努力に加えて、高速道路などインフラがもたらす効果にも期待が掛かります。

高速道路が支えてきた日本の物流

さて、長距離トラック輸送をドライバーが支えてきたのはもちろんですが、全国に整備されてきた高速道路もまた大きな役割を果たしてきました。高速道路の整備により、より早く、安全に、安定的にモノを運ぶことが実現されています。
東京-大阪間を例にみると、1990年(平成2年)時点では約5時間55分掛かっていました。これが、2010年(平成22年)時点では伊勢湾岸自動車道や新名神高速道路の整備により、移動距離が短くなったものの、交通需要が増大し、混雑が発生したことにより所要時間は増え、6時間15分となってしまいます。しかしその後、新東名高速道路が開通し、既存の東名高速道路との間で交通の分散化が図られた結果、約5時間10分と大きな時間短縮効果を発揮しています。この間、東京-大阪間を結ぶトラック輸送の割合(重量ベース)は増加しており、直近では98%がトラック輸送になるなど、長距離輸送におけるトラック輸送の重要性は極めて高くなりました。トラック輸送の重要性が高まった分、それを支える高速道路の重要性もまた高まったと言えます。

高速道路整備の変遷・所要時間の変化・トラック輸送比率(重量ベース)

これからも物流を支える高速道路

高速道路の整備は、重要性を増すトラック輸送に対して、混雑緩和などで走りやすい道路環境の提供や所要時間短縮で運搬時間の削減をもたらすことでドライバーの負担を軽減し、労働環境を改善につながり、ひいては2024年問題の影響の緩和にも貢献し、長距離輸送の持続可能性を向上させます。
さて、新東名高速道路の効果の一端は上記で述べたとおりですが、東京-大阪のまんなかに位置し、ものづくり地域として多くの物量が発生する中部地方でも、同様の効果が期待できる都市圏の環状道路プロジェクト、東海環状自動車道の整備が進められています。東海環状自動車道は、愛知県、岐阜県、三重県の3県に跨る延長約153kmの高規格道路で、東名高速道路、新東名高速道路、名神高速道路、新名神高速道路にも接続しています。およそ40年の整備期間を経て、2026年度(令和8年度)に全線開通が予定されています。
東海環状自動車道の全線開通によって、集中する東名阪の交通が分散され、東京-大阪間の大動脈の物流にさらなる整流化がもたらされると、渋滞がないと仮定した場合の所要時間(約5時間)に近づくことになり、2024年問題に対しても効果が期待されます。また、複数の経路選択ができるようになるため、高速道路を降りずに途絶や混雑を回避できることで遅延リスクが低減され、長距離トラック輸送においてより効率的な運行計画が可能になる効果も期待されます。これに加えて、複数の経路でネットワーク化されることによって経路の代替性(リダンダンシー効果)が生まれ、事故渋滞時に迂回するなどで運搬上のリスクを回避できるようになり、到着時間の信頼性も高める効果も見込めます。東海環状自動車道もまた、時間の信頼性向上によってドライバーの時間調整(荷待ち時間など)を減少させ、長時間労働の改善、輸送効率の向上でドライバー不足の改善に寄与すると考えられます。
2024年問題をきっかけとして、改めて社会経済活動における重要性が顕在化した物流業界ですが、それを支える高速道路の役割の重要性も改めて認識する機会となったのではないでしょうか。このように、高速道路は所要時間の短縮だけではなく、ドライバーの“荷待ち時間”の短縮で人手不足を補い、2024年問題の解決の一端を担うことから、持続可能な物流環境の創出のためにも、今後の高速道路整備を考えることが求められます。

全線開通を迎える東海環状自動車道
東京~大阪間の所要時間の推定

1 ]内閣官房「物流革新に向けた政策パッケージ」(令和5年6月2日我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議決定)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/kettei.html

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