今月のグラフ(2021年5月)コロナ禍で悪化する家計の値上げ許容度

2021/05/06 藤田 隼平
今月のグラフ
国内マクロ経済

新型コロナウイルスが日本国内で初めて確認されてから、すでに1年あまりが経過した。感染者数は増減を繰り返しながら推移しており、足元では東京や大阪等の都市部を中心に感染拡大の第4波に見舞われるなど、今なお終息の目途は立っていない。

この間、日本経済は、2019年10月の消費税率引き上げによって落ち込んだところにコロナショックの直撃を受け、1年以上にわたって停滞している。図表1は日本全体の需給バランスを表すGDPギャップの推移を表している。GDPギャップは、消費税率が10%に引き上げられた2019年10-12月期にマイナスに陥った後、1度目の緊急事態宣言が出された2020年4-6月期には▲10.6%と、リーマン・ショック時を超える水準にまで悪化した。その後、経済活動の再開に伴ってGDPギャップは縮小へ向かったものの、2020年10-12月期時点では▲3.5%と、金額換算で約20兆円に上る需要不足が残り、さらに年明けには2度目の緊急事態宣言が出されたこともあって、GDPギャップは再び拡大する見込みである。

こうした需要不足の長期化によって懸念される事態のひとつが、デフレリスクの高まりである。特に足元では、家計が値上げに対してよりネガティブなイメージを持つようになっており、デフレマインドの再燃につながる懸念がある。図表2は、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」をもとに、家計の値上げ許容度(物価が前年よりも「かなり上がった」、「少し上がった」と答えた回答者のうち、「物価上昇をどちらかと言えば好ましいことだ」と答えた者の割合と、「どちらかと言えば困ったことだ」と答えた者の割合の差)を試算したものである。これを見ると、家計にとって値上げは好ましいことではないため常にマイナス圏で推移しているものの、アベノミクスの下では値上げに対する抵抗感が弱まり、家計の値上げ許容度は期間平均を上回って推移していた。しかし、2019年前半をピークに値上げ許容度は低下傾向に転じ、コロナ禍でその動きが強まっている。

総務省によると、2020年の消費者物価(生鮮食品を除く総合:コア)は前年比▲0.2%と、2016年以来5年ぶりに前年比マイナスとなった。もっとも、消費税率の引き上げやエネルギー価格の下落、幼児・高等教育の無償化、Go Toトラベルの影響など、物価の基調とは直接関係の薄い要因を除けば前年比+0.1%(内閣府試算値、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(政策による特殊要因を除くベース))とプラス圏を維持している。当面は、世界的な資源価格の上昇もあって、消費者物価のマイナス幅が拡大していくことはなさそうだ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって日本国内の需要不足が長引くようだと、家計の値上げに対する抵抗感が強まり、企業は値上げに一層慎重にならざるを得なくなるだけでなく、値下げに踏み切る動きも広がる可能性がある。2001年3月に政府が「月例経済報告」で日本経済がデフレに陥ったとの認識を公式に示してから20年目を迎える節目の年に、近年前進していたデフレとの戦いが、後退するリスクがある。

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