今月のグラフ(2021年12月) 年齢別にみた消費構造と物価上昇

2021/12/03 中田 一良
今月のグラフ
国内マクロ経済

消費者物価指数は、基準時点の財、サービスの家計による平均的な購入額の組み合わせ(消費バスケット)におけるそれぞれのウェイトを用いて、財やサービスの価格を加重平均したものであり、個別品目はその価格変動に加えて、ウェイトの大きさを通じて消費者物価指数の動向に影響を及ぼす。したがって、消費バスケットの構成、つまり消費構造は消費者物価の動向に影響を与える要因の一つとなる。

世帯主の年齢別に消費構造をみると、いずれの年齢層においても食料のシェアが最も高いが、その水準は年齢層によって違いがあり、20代が23.9%と最も低いのに対して、70代が28.8%と最も高い(図表1)。また、40代、50代は他の年齢層と比較すると教育費のシェアが高いという特徴があり、これは高等教育の授業料によるものと考えられる。このほか、携帯電話の通信料が含まれる交通・通信のシェアは、20代がやや高く、30代から50代ではそれほど大きな違いがみられないのに対して、60代、70代は50代以下と比較すると低い。このように、消費構造は世帯主の年齢によって異なっている。

こうした消費構造の違いを考慮した、各年齢層の消費者物価の動向をみると、2018年までは多少のばらつきはあるものの、それほど大きな違いはみられなかった(図表2)。しかし、2019年以降は大きな違いがみられ、20代、30代の消費者物価は下落した一方、50代以上の消費者物価は上昇が続いた。20代、30代の消費者物価の下落は、2019年10月に消費税率が引き上げられた時に実施された幼児教育無償化の影響が大きいと考えられる。

2021年10月の消費者物価は前年比+0.1%と上昇し、内訳をみると、ガソリンなどが含まれるエネルギーは同+11.3%と上昇した一方、携帯電話の通信料は同-53.6%と大きく下落した。携帯電話の通信料の消費者物価全体に対する寄与度は-1.47%であり、携帯電話の通信料の下落が消費者物価の上昇を抑制する要因となっている。足もとでは、食料品やガソリン、灯油などの価格が上昇しており、燃料の価格変動の影響を受ける電気やガスの料金も今後、さらに上昇すると見込まれる。当面は、携帯電話の通信料の下落の影響が続くこともあり、消費者物価はそれほど大きくは上昇しない可能性があるものの、消費構造において価格が上昇している食料や光熱・水道のシェアが相対的に高い60代以上は、他の年齢層よりも高い物価上昇率に直面すると考えられる。

総務省「家計調査(総世帯)」によると、高齢化の進展に伴い、世帯主の年齢が60代以上である世帯の消費額が消費全体に占める割合は、2020年には48.7%に上昇している。今後、個人消費は新型コロナウイルスの感染拡大防止と経済活動の両立を目指す中で、持ち直していくとみられるものの、エネルギーや食料品などの価格上昇の影響が大きくなれば、消費全体の半分近くを占める60代以上の世帯で節約志向が高まり、個人消費の持ち直しのペースを抑制する可能性がある。

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