今月のグラフ(2023年9月)中国人訪日旅行は増加期待も人手不足がボトルネックに

2023/09/05 丸山 健太
今月のグラフ
国内マクロ経済
中国
変化を捉える【経済】

2023年8月10日、中国から日本への団体旅行が解禁された。2019年の中国からの訪日客は959万人と訪日外国人全体の3割を占め、国・地域別で最多だったが、2020年以降、中国政府がゼロコロナ政策の一環として中国人の海外渡航を制限し、中国からの訪日客は大幅に減少した。今年1月、中国からの個人旅行は可能となったが、ビザ要件の厳しさなどから日本への渡航増加は限定的で、直近7月は31万人と2019年同月の3割にとどまった。予約から出国までのラグを考えると、中国からの団体旅行は10月初旬の国慶節8連休以降、増加が期待される。

中国景気はゼロコロナ政策撤廃後、リベンジ消費の予想外の弱さや不動産市場の低迷、輸出の停滞などを背景に減速しているが、中国人の旅行意欲は回復傾向にある。中国人民銀行のアンケート調査によると、向こう3ヶ月で支出を増やそうとしている項目として「旅行」を選ぶ人の割合が、ここ半年で大きく上昇した。雇用・所得情勢の悪化にもかかわらず、旅行意欲が順調に回復している背景に、昨年末のゼロコロナ政策撤廃で、抑制されていた外出やレジャーへの意欲が一気に噴出したことや、コロナ禍で消費機会を失い蓄積された貯蓄が原資となっていることなどがある。原発処理水の海洋放出に伴う対日感情の悪化はマイナス材料だが、中国人の海外旅行の目的地としての日本人気は基本的に高く、旅行意欲が高まる中、団体旅行解禁と相まって中国人訪日旅行の増加が期待される。

ただし、受入側の日本が中国人観光客の急増に対応しきれない懸念がある。国内の延べ宿泊者数は2023年6月にコロナ後初めて2019年同月を上回った(図表1)。内訳をみると、延べ宿泊者数の8割を占める日本人が2019年同月より1.7%多かったほか、外国人も同1.6%減と小幅減にとどまり、9割以上減少した昨年夏場から大きく回復した。特に、米国や韓国からの訪日客数はコロナ前を1割以上も上回った。宿泊者数はコロナ前を回復していることから、国内の観光業界の受入能力はすでに飽和状態に近づいている可能性があり、今後中国人観光客が増加すれば、供給能力の限界がサービスの質低下やトラブルの発生などにつながることが危惧される。

日本の観光客受入能力として、コロナ禍で減便した航空旅客便の座席数やホテルなど宿泊施設の部屋数の不足も危惧されるが、特に人手不足が最大のボトルネックとなろう。日本の完全失業率は2023年6月に2.5%と低水準で、経済活動の回復と人口減少を背景に労働需給が極めてタイトな状況にある。中でもコロナ禍で大打撃を受けた観光関連業種の人手不足は深刻で、日銀短観・雇用人員判断DIでみた人手不足感は、宿泊・飲食サービス業や、運輸・郵便業、テーマパークなど娯楽業を含む対個人サービスでかなり強い(図表2)。
日本政府は2023年3月に策定した「観光立国推進基本計画」において、2025年までに訪日外国人観光客数の2019年実績(3188万人)超えを目指している。今年2023年には2500万人程度までの回復が見込まれ、目標達成は難しくないが、計画期間後もインバウンド市場の持続可能な拡大を目指すならば、人手不足の解消は急務である。具体的には、配膳ロボットの導入などによる省力化や、観光関連産業の高付加価値化による賃金引き上げを通じた人手確保などが必要となろう。さらに、コロナ前まで深刻だったオーバーツーリズムへの対応も含め、広い意味での観光客受入能力拡大に向けた取り組みが求められる。

図表1 国内延べ宿泊者数(2019年同月比)
国内延べ宿泊者数(2019年同月比)
図表2 日銀短観・雇用人員判断DI(大企業)
日銀短観・雇用人員判断DI(大企業)

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