女性の定着とキャリア

2022/08/01 矢島 洋子

正社員女性において、妊娠・出産時の就業継続が一般化したことで、女性支援の中心課題は両立から活躍に移った。これを前提に、企業も女性も、両立支援の活用法やキャリアの考え方を見直す必要がある。

両立支援利用に関する留意点

第一に、育児休業などの両立支援制度も、就業継続のみを目的とするのではなく、その後の活躍を視野に入れた運用が求められる。企業がこのための施策として導入しているのが、育休取得前・取得中・取得後の面談と復職後の研修だ。休業中の離職も多かった時代には、面談等のフォローは復職を促すことが主目的だった。育休取得者がほぼ復職するようになった現在は、復職後の働き方やキャリアについてのイメージあわせや、仕事や組織に対するエンゲージメントが下がらないよう働きかけることが主目的となってきている。なお、あくまで休業中であることから、育休中にスキルアップ等を目的として、研修への参加を企業から要請するといった取り組みは、本人が望む場合を除きNGである。近年は企業の中にも、休業中の「子育て」という経験そのものが、職場の多様性に貢献するという見方が出てきている。

第二に、共働き家庭でも女性のみが育休を取得した場合、一時的に女性のみが家事・育児を担うことが当然のようになり、復職後も役割分担を修正しにくいという問題がある。初めての出産時には、当事者の女性社員もこうしたリスクに気付きにくいため、休業前後の面談や研修で、こうした課題について情報提供を行うことも有用だ。面談や研修に配偶者の参加を求める企業も出てきている。

復職後は、短時間勤務等の制度利用の有無にかかわらず、出産前よりも制約のある中で効率的に業務遂行するためのタイムマネジメントの考え方や、中長期的なキャリア展望を上司と共有することの重要性などを研修等で伝える。子どもが小さな時期は、新しい仕事やスキル獲得のための時間を捻出することが困難だとしても、中長期的なキャリア展望を持っているかどうかで、日々の仕事への向き合い方や上司のアサインメントが変わってくる。そのために復職後の研修は、当事者向けのみならず、復職者の上司にも行うことが重要だ。

初期キャリアや有期雇用への影響

女性の就業継続が一般化し、企業も女性の長期的なキャリアを考えるようになったことで、初期キャリアに対する捉え方も変わってきている。自分の仕事が自律的に行えるようになり、現場でリーダーシップを発揮するような経験が期待される時期に制約社員になる可能性が高いことから、初期キャリアの段階で今まで以上に多様な経験をさせることが重要だと考える企業が出てきている。これは、両立支援が充実した企業ほど、これまでよりも早い時期での結婚・出産が増えているという事情にもよる。

このように正社員女性は、妊娠・出産を経ても就業継続し、企業も長期的なキャリアを前提とした育成を意識するようになってきたが、女性労働者の過半数を占める非正社員についてはどうだろうか。

育児・介護休業法の改正により、2022年4月から有期雇用労働者の育休取得要件がさらに緩和されている。「前要件」と呼ばれる「同一事業主に1年以上雇用されていること」が撤廃され、「子が1歳6カ月に達する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと」という「後要件」のみとなった。

2020年度の雇用均等基本調査では、有期雇用の女性の育休取得者がいる事業所の割合は77.4%にのぼり、要件緩和により今後さらなる増加が予想される。育休取得により就業が継続すれば、無期転換する社員も増えてくるであろう。元々、企業側が短期的ニーズではない仕事に有期雇用者をあてている場合も少なくないが、長期的雇用を前提とするかどうかで、初期キャリアからの育成に差がつく。短時間勤務など正社員の両立可能な働き方が広がったことで、働く側としては、いわゆるパート労働を選択する必要性は低下している。労働人口の減少が続く日本においては、企業も有期雇用の在り方を見直し、結果としての無期転換ではなく、長期的視野に立った育成による人材活用を進める必要がある。

新たなアンコンシャス・バイアスの除去を

かつて、多くの女性が妊娠・出産時に離職していたことが、企業は女性を採用しない、管理職は育成しない、女性たちも長期的なキャリア展望を描かない、という負のスパイラルにつながっていた。残念ながら、就業継続が一般化した今も、この負のスパイラルは断ち切られていない。理由の1つは、女性の就業継続のフェーズが変わったことを認識していない人事や管理層などのアンコンシャス・バイアスによるものだ。もう1つは、短時間勤務などの制約社員が活躍できる環境が整っていないことによる。後者もすべての人が活躍できていないわけではないし、本人の問題というよりも職場環境に問題があるため、一種のアンコンシャス・バイアスと言えよう。

こうした新たなアンコンシャス・バイアスを除去し、社会の有り様も、女性の就業継続と長期的キャリア形成を前提としたものにアップデートしていくことが求められる。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年8月号より転載)

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