テレワーク活用がもたらす変化

2023/02/07 矢島 洋子

コロナ禍の影響で日本企業におけるテレワーク活用は一気に進んだ。しかし、行動制限が解除される中、テレワーク活用を止める企業とさらに推進する企業とに分かれてきている。

テレワーク推進で分かれる経営判断

内閣府の調査によれば、テレワークの利用率は、第1回目の緊急事態宣言が発出された2020年4~5月に急増し、宣言解除後にいったん低下した。政府の要請により急ぎテレワーク導入に踏み切ったものの、テレワークを十分活用できる環境整備が追い付いていない企業が多かったためとみられる。その後、第2回、第3回の緊急事態宣言では、第1回の宣言時のような大幅な変化はみられなかったものの、利用率は再び上昇しだした。

感染防止の観点のみならず、テレワークを含めた柔軟な働き方の選択肢を増やすことがダイバーシティ経営においても、有用であるとの見方が加わり、このまま緩やかに増加基調が続くともみられた。しかし、行動制限が解除され、今後も制限がかかる可能性が低いと目されるようになると、わずかながら利用率が下がってきている。

比較的テレワーク利用率の高い東京の大企業の中でも、経営の方針として、テレワーク利用を止めたり、制限をかけ出した企業がある。背景には、主にテレワーク利用による生産性やコミュニケーションに関する経営層の問題意識がある。一方で、「リモートワークを基本とする新たな働き方の導入」を打ち出したNTTグループのように、さらに積極的にテレワークを推進しようとする企業もある。
積極推進する企業にも、生産性やコミュニケーションに対する問題意識はある。これを問題として利用を止めるのか、問題への対応も含めてさらに先に進むのかで、経営判断が分かれている。

テレワークの生産性とは

テレワークの生産性について論ずる際には、2点気を付けるポイントがある。

1つは、当然のことながら、テレワークの生産性は、社内外の環境整備に依存するということだ。社内のテレワーク利用ツールやネット環境の整備、ペーパレス化や承認・契約手続きのオンライン化、テレワークとのハイブリッド利用に即したオフィスのリモデルやサテライトオフィスの確保、労務管理や評価、マネジメントルールの見直しなどが必要だ。社外では、取引先との業務の進め方や業界内の商慣行の見直し、公共のネット環境やテレワークに関連する法制度の整備などもまだ必要だろう。これらの対応状況が生産性に大きく影響することは、当然経営層は把握しており、環境整備を行いながら前に進むのか、環境が整備されるまで利用を見送るのか、の違いなのだ。

もう1つのポイントは、経営層にしばしばみられる「テレワークの生産性はオフィスよりも高い必要がある」との誤解だ。

「必要に応じてテレワークも使える」ことが「オフィスだけで働く」よりも生産性が高くなるのであって、テレワークとオフィスを単体で比較してテレワークの方が生産性が高いのであれば、逆にオフィスの在り方に問題がある。本来、仕事をする上で、オフィスは最適化された環境であるはずだ。テレワークの効果として、「オフィスより集中できた」「上司と離れてストレスが減った」などが挙げられるが、これらはテレワークそのものの効果というより、オフィスやマネジメントの改善課題だ。テレワークの意義は、「クライアントなど訪問先からオフィスへ戻るより自宅やサテライトで仕事をした方が早い」「子育てや介護で午前休を取る際、在宅なら半日丸々働ける」など、ワークやライフの必要上「テレワークも」選択できた方が効率よく働ける場面が多々あることにある。

従って、「テレワークでしか働けない」というのもまた問題があり、コロナ禍でテレワーク主体に大きく傾いていた企業も、感染防止の観点が弱まれば、おのずとテレワークとオフィス勤務のハイブリッド型を目指すことになろう。ハイブリッド型にはハイブリッド型のルール設定、マネジメントの難しさはあるが、労働者のニーズが高く、生産性を高められる可能性のある働き方であり、その運用においては、社員が自律的に柔軟なテレワーク選択が可能であることと、どのような働き方を選択しても成果で評価されることが重要だ。

テレワーク推進がもたらす変化

テレワークを推進する企業では、こうした環境整備が進み、コミュニケーションに関する試行錯誤も重ねられることで、テレワークに限らず柔軟な働き方で社員のワーク・ライフ・バランスを実現する可能性が広がる。子育てのための短時間正社員も働き方によらず公正な評価を受けやすくなり、転勤制度の見直しなどの議論も進み、介護や子どもの教育、Uターンなど様々な事由での離職防止や、こうした事由を抱えた多様な人材の採用の可能性も広がる。

コロナ禍でテレワークをいったんは利用し、働き方や家族との過ごし方を見直した日本人は少なくない。テレワークが利用できることが、若者を中心に、就職企業の選択に大きな意味を持つようにもなってきている。今活用を止めている企業も、中長期的な視点で、テレワークの生産性を高める環境整備に取り組む必要がある。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2023年1月号より転載)

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