ジョブ型雇用部分導入のメリット②シニア人材の事例

2022/09/01 諏訪内 翔子、三城 圭太
Quick経営トレンド
組織・人事戦略
ジョブ型

前回は、ジョブ型雇用の人材マネジメント(以下、ジョブ型人材マネジメント)の一般的な導入類型と、高度専門職(DX人材や研究職等)の導入事例をご紹介しました。今回は、「②シニア人材の事例」と題して、嘱託再雇用社員や定年延長を実施した企業の正社員(以下、シニア人材)への導入事例をご紹介します。

シニア人材向けジョブ型人材マネジメント導入の目的

シニア人材を対象にジョブ型人材マネジメントを導入した企業には、どのような目的があったのでしょうか。2社の事例を図表1にまとめました。

【図表1】シニア人材向けジョブ型人材マネジメント導入事例

図 シニア人材向けジョブ型人材マネジメント導入事例

(出所)当社作成

α社は、DX・業務効率化に伴い、非定型業務の担い手としてシニア人材に活躍してもらう目的を掲げた事例です。従来、α社では60歳後は大多数の再雇用社員が定型的な業務に従事し、報酬水準は60歳前の賃金に応じて決定する(減額となる)人事制度を運用してきました。今後、年代別の要員構成に起因して再雇用社員数のさらなる増加が見込まれる一方で、DX・業務効率化によって定型業務は減少することが予想されていました。 そこで、本人の能力・経験のほか、現場の実態やニーズも踏まえ、シニア人材の非定型業務の割合を増やしました。あわせて、シニア人材を対象に職務等級人事制度を導入し、職務や貢献度に応じた処遇の実現を目指しています。

β社は、シニア人材のモチベーション向上に加え、将来全社員がジョブ型雇用へ移行するうえでの先駆けの位置づけとして職務基準の制度を導入した事例です。 β社では役職定年前の55歳までは、メンバーシップ型の人事制度を適用しています。従来の人事制度では、再雇用社員は実態として業務内容は60歳前後で変化がないものの、報酬水準は減額となっていました。そのため、シニア人材に加えて、処遇の変化を間近で見ている55歳前社員のモチベーションやワークエンゲージメントにも悪影響を与えていました。 そこで、このたびの65歳までの定年延長にあわせて、役職定年となる55歳以上社員向けに職務等級人事制度を新たに採用しました。やりがいのある職務や納得感のある処遇を実現し、シニア人材、さらには55歳前社員のモチベーション向上に繋がるよう、職務基準のメリハリのある制度としています。

また、β社では、将来的に55歳前社員も含めた全階層に対する職務等級人事制度の導入を検討しています。比較的小規模で導入できるシニア人材から取り組むことで社内の混乱を避けつつ、最終的に企業全体の人材マネジメント方針を転換することを計画しています。

まとめ

少子高齢化による若手層の採用競争激化、定年延長導入の機運の高まり等の観点から、今後はシニア人材を事業戦略実現の重要戦力として位置づける企業が増加する見込みです。これまでは、全社的な人件費調整(主には削減)の手段として60歳以降は一律で報酬を減額するケースが主流でした。今後はシニア人材のアクティブなキャリア形成に資する職域開発や職務に応じたメリハリのある処遇を実現し、年齢に関わらず高付加価値業務を継続できる社員や貢献度が高い社員に報いていくことが重要です。また、その際、リスキリングなどの施策もあわせて検討することが有用です。

一方で、全社的な人材マネジメントの課題解決(たとえば「貢献と処遇の一致」「年功序列・横並び人事の撤廃」「自律的なキャリア形成」)のためには、60歳前の人材も対象に含めた制度改定も視野にいれる必要があります。その手段として、企業全体で職務基準に舵を切るのも1つの選択肢ですし、メンバーシップ型を維持しながら必要な範囲で改善する方法もあります。いずれの導入方法をとった場合も、自社としての人材マネジメント方針を発信し、それに基づく施策を若年層からシニア人材まで社員のステージに応じて計画・実行する必要があるといえるでしょう。

【ジョブ型雇用部分導入のメリット①高度専門職の事例】
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執筆者

  • 諏訪内 翔子

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    マネージャー

    諏訪内 翔子
  • 三城 圭太

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第3部

    プリンシパル

    三城 圭太
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