【特別企画/全国 1 万人調査】自粛対応における消費者のジレンマ

2020/10/29 矢島 洋子
1万人調査(第1回)

1. 消費者のジレンマとは
全国一斉に緊急事態宣言が出されていた期間、就労に関する行動については、政府や自治体からの休業要請・事業継続要請に応じ、企業規模、業種、職種ごとに一定の変化がみられた[1]。就学については、緊急事態宣言前からの一斉休校等の影響を受け、代替となる学習手段が未整備のまま大幅に活動が抑制されることとなった[2]。では、生活を営む上で必要な、「買い物をする」「飲食をとる」「理・美容等のサービスを利用する」「宿泊する」「娯楽施設を利用する」「医療を受診する」といった、いわば「消費者としての行動」についてはどのような変化があっただろうか。

今回の調査では、以下に示す2つの仮説を設定した。①多くの人々が、自身の感染リスクの軽減だけを考えて行動選択したのではなく、消費者あるいはサービスの受け手として、社会生活の維持のために必要不可欠な仕事をしている、いわゆる「エッセンシャルワーカー」の「感染リスクに配慮する行動」を心掛けていたのではないか、②ただし、そのためにどのような行動を選択すべきか「判断に迷う状況」があったのではないか。

本稿では、この仮説を検証すべく、人々が消費者として、自身の生活上のニーズから買い物等の行動を取る必要がある中で、自身の感染リスクはもちろん、「エッセンシャルワーカー」の人々の感染リスク等を考慮した行動抑制との兼ね合いで陥ったジレンマに焦点を当てる。消費者として、どのような行動を適切と判断したのか、その判断にはどの程度ばらつきがあったのか、判断ができなかった人はどの程度いたのか。エッセンシャルワーカーの感染リスクへの配慮の違いによって、買い物行動についての判断がどの程度異なるのか。

また、消費者としての「適切な判断」において、回答者全体と、「買い物」や「飲食をとる」などのサービスを提供する側に立つエッセンシャルワーカーの人々の「判断」との間に差はあるのか。つまり、スーパーで働く人は、「スーパー等での買い物を控える」のが良いと考える割合が、他の人々に比べて高いのか、あるいは変わらないのか。「医療」従事者は、「軽い症状での受診」でも積極的にすべきと考える割合が、他の人々よりも高いのか、あるいは変わらないのか。多くの人が「エッセンシャルワーカー」の感染リスクに配慮する消費者行動を心掛けたいと考え、迷いながらも「適切」と判断した行動が正解だったのかどうか。その「判断基準」が見えてこない中で、当該領域で働く人々の認識との比較から、消費者としての行動の妥当性を検討したい。あるいは、消費者としての判断のジレンマは、同時にサービスを提供する側(エッセンシャルワーカー)にとってのジレンマでもあるのではないか、という視点も提示したい。
続きは全文紹介をご覧ください。

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[1] 就労者の通勤については、「就労者における都道府県間移動の実態と働き方の変化」、働き方の変化については「企業規模・業種・職種別にみる働き方の変化と課題」を参照のこと。

[2] 子どもの学習環境の変化については、「臨時休校中の子どもの学習状況」「一斉休校等による子どもの生活への影響と保護者の負担感」を参照のこと。

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