

多様な人財が
活躍できる組織へ
社長×チーフ・ダイバーシティ&
インクルージョン・オフィサーが語る取り組み
MURCでは、全社員がワーク・ライフ・バランス(WLB)をはかりながら能力を最大限に発揮し、「自律的キャリア」を形成することのできる職場環境づくりを進めています。前編の主なテーマは、「柔軟な働き方」と「自律的キャリア」をベースに女性幹部の少なさに潜む「問題」への挑戦、人を育てるハイブリッドワークの追求でした。後編では、属性に関わりなく活躍できる組織とそれを実行するためのカギになること。また、今後MURCが進むべき方向性や目標などについて、代表取締役社長 池田雅一と、CDIO矢島洋子が語ります。
属性に関わりなく活躍できる組織へ
時間制約社員の評価と性別役割分業の解消がカギ
今後注力していく取り組みについて教えてください。

池田: 女性の活躍を促進するには、女性本人への支援だけでなく、周囲の理解や関わりも含めた両方向からのアプローチが必要です。これまでは、女性が「昇進・昇格を積極的に目指そう」と思える施策が少なかったと思っています。そこで、管理職候補を対象に、役員によるメンター制度を導入しました。悩みを聞いたり励ましたりする「メンタリング」と、意欲を引き出す「コーチング」の両面から支援しています。制度は、性別を問わず対象としていますが、本音では女性リーダー育成に重点を置いた新たな試みです。このメンター制度を通じて、より積極的に経営にコミットする人材が育つ集団づくりを進めていきたいと考えています。これは、私の今後の重要なビジョンの1つです。もう1つ重要なことがあります。それはさらなる勤務の柔軟性の向上と多様な働き方に応じた評価です。ケアワークの多くを女性が担う実情を踏まえ、働き方でさらに活躍をバックアップできる方法を探りたいと考えています。
一方、男性社員については、育休に対する見方を変えたいと思います。育休を経験した男性は、育児中の同僚や部下への理解度が深まります。私自身、妻が週末勤務だった時期に家事・育児を担ったことで、その大変さを身をもって実感し、女性に対する見方が大きく変わりました。男性育休は、いわば「チャレンジリーブ」といった見方もでき、極めて重要です。取得しやすい環境を会社として積極的に用意していくべきだと考えています。本人は取得したいけれど、上司の理解が不足していて、あるいは仕事の調整がつかなくて取得できないといったことは、もちろんないように。これが、もう1つのビジョンです。
矢島: 私は、CDIOとしての方針説明で、「管理職女性割合などの数値目標を第一とするような取り組みを行うつもりはない。当社の部長職になぜ女性が少ないのか。その原因を追究し、障壁となっている『問題』を解決する取り組みを行うつもりだ」とお話ししました。その「取り組み」というのは、必ずしも女性だけを対象にしたものにはならず、管理職を含む全社員のより一層の働き方改革であったり、時間制約のある社員の評価やキャリア形成のあり方の見直しだったり、日常の業務にわずかにでも潜む「性別役割分業意識」の見直しであったりすると考えています。こうした取り組みをした結果、女性のキャリア形成がこれまでよりも積極的に追求できるようになると同時に、すべての社員のWLB がより充実し、性別、年齢、雇用形態等にかかわらず、異なる価値観や働き方で活躍できるようになると考えています。
池田: これから進める施策の約8割は総合職にフォーカスしています。総合職には、プロパーの女性社員が数多く在籍していますが、これまで銀行からの出向者(多くは男性で管理職)との役割分担のもとで働いていたのが実情です。これからは、プロパーの社員もマネジメント役割を担うことを前提にキャリアを考えていただくことが必要で、支援と環境整備を進めていきます。
研究員やコンサルタントは、打つべき手はハッキリしていて、「働き方を変えた人をどう評価するか」がポイントです。例えば、育休中は「いなかった期間」と見られがちですが、子育てや家事をマネジメントする経験は優れたトレーニングとも捉えることができます。介護についても同様です。マルチタスク対応能力やマネジメント力の向上など業務にも活きる経験をしている可能性がある。復職後に、働き方に制約のある社員が公正に評価されているか。仮に、従来のマネジメントや慣習のために、評価がなされていないのであれば、見直していく。例えば、研究員やコンサルタントには、個人の目標は働き方に応じて調整される仕組みがありますが、所属する組織の目標や周囲の同僚の評価なども対応できているか、徹底していく必要があります。こうした評価の問題は、総合職についてももちろん対応していきます。

矢島: 当社の短時間勤務制度は、小学校6年生まで利用可能です。一般的な定時勤務で働いている総合職の場合、子育て期にこの制度を利用する人が多くいます。一方、裁量労働制の研究職やコンサルタント職は、時間ではなく、給与の調整により目標と仕事量をコントロールする制度も設けられており、こちらを利用する人が多い状況です。制度は充実していますが、この制度を利用した社員の業務配分や評価、周囲の同僚のサポートや評価については、各部門で個別に対応してきた経緯があり、今後は全社で方針やルールを設定し、マネジメントを向上させていく必要があると考えています。
また、当社は、専門職が多く、男性でも部長など組織のマネジメントを担うことには消極的で、自身の専門性を極めたいと考える人が多いのが実情です。部長などの業務が負担に感じられると誰も目指さなくなるため、マネジメント業務の効率化や管理職の組織的なバックアップ体制が重要です。こうした課題は性別にかかわらずあり、まずそうした管理職のあり方・働き方の見直しに取り組む必要があります。
こうした多岐にわたる施策を効果的に進めるためにはD&Iの推進体制も大きなポイントとなります。今回、CDIOとしてD&Iをリードする私と、経営企画部門、人事部が三位一体となって、事務局機能を果たす体制を整えていただきました。全社の経営戦略や各部門の事業戦略にD&Iを位置付けて推進していく上で大きな意義があります。
もう1つ、今年度中に「従業員リソースグループ(ERG)」の設置を計画しています。育児や介護などの当事者が情報交換し、助け合う場として機能させると同時に、当事者の声を会社に届けてもらう仕組みにしたいと考えています。疾病治療と仕事を両立する社員など、他にもテーマは考えられるので、ニーズに応じて展開していきたいと思います。
社員のチャレンジを組織的にバックアップする会社へ
今後の抱負をお聞かせください。
矢島: 最初にお話したとおり、当社には早くから柔軟な働き方を可能にする制度や「個」を大切にする組織風土があり、D&Iはもう十分進んでいると考えている人も多いことから、「今後何をするのか」と問われることがあります。一方で、まだ切実な悩みを抱えている社員の声もあり、課題は少なくありません。そうした課題に一つひとつ答えながら、目指したいのは、多くの社員が自律的キャリアを追求できる組織になることです。私が入社した創業当初から、当社が「自律的キャリア」を推進してきたのは、当時のマネジメント層が「人は本当に好きなことでないと真に能力発揮できない」と考えたからです。ただこれまでは、「自由に『好き』を追求して本当に仕事にできるか」は個々の社員次第でした。今後は、社員の『好き』を尊重しながら、そのキャリアを実現するためのバックアップを組織的にしっかりと行う。「その方針もノウハウも持っています!」と言える会社になりたいと思います。

池田: 「チャンスをください」と言う人が溢れるような会社にしたいですね。当社にも男女の賃金格差はありますが、属性を問わず、より柔軟に働くことができ、積極的にチャレンジする風土が醸成され、成果が報酬に反映されることにより、結果的に格差も縮小するはずです。直接的に賃金からではなく、全社員の活躍を支援することからアプローチし、格差を縮小していくのが理想です。



代表取締役 社長
池田雅一 IKEDA Masakazu
1986年に三和銀行(現三菱 UFJ 銀行)に入行、法人営業と人事を中心に担当。
その後、人事部の担当役員であるCHRO(Chief Human Resource Officer)。
2021年当社代表取締役社長就任。島根県隠岐の島出身。「仕事の自由」「職場の安全感」「社会価値」を重視し、「個人生活の幸福無くして仕事の充実はない」と考え、社会にとって価値があり、働く人すべてにとって魅力ある会社づくりに取り組む。

CDIO / 主席研究員
矢島洋子 YAJIMA Yoko
1989年に三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に入社。研究員として、少子化対策の視点から、WLBやD&I関連の調査研究や政策提言、企業コンサルティングに取り組む。2004年4月より3年間、内閣府男女共同参画分析官。2018年7月に執行役員就任、2025年1月より現職。