統合報告書に記載する「価値創造ストーリー」のポイント

2022/10/05 大野 知也、川田 真寛
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経営戦略

2021年以降、統合報告書を発行する企業が増加しています。統合報告書は有価証券報告書とは異なり、明確な開示ルールは存在しません。そのため、各社がさまざまな形式で発行をしています。一方で、ステークホルダーから支持・評価される統合報告書では、共通して「価値創造ストーリー」の記載が重要であると言われます。本コラムでは、統合報告書に記載する「価値創造ストーリー」のポイントについて概説します。

統合報告書の動向

2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、サステナビリティについての基本的な方針や取り組みの開示が求められるようになりました。その影響もあってか、ディスクロージャー&IR総合研究所の「統合報告書発行状況調査2021」によると、2021年に統合報告書を発行した国内企業数は718社と過去最多となっています【図表1】。

【図表1】 統合報告書の発行企業数推移

図 統合報告書の発行企業数推移

(出所)株式会社ディスクロージャー&IR総合研究所「統合報告書発行状況調査2021」より当社作成

「価値創造ストーリー」とは

統合報告書を発行する企業が増加する中で、統合報告書の作成に旧国際統合報告評議会(以下、旧IIRC)(注)のフレームワークを用いる企業が多く見られるようになっています。旧IIRCのフレームワークでは、「価値創造」を「組織の事業活動とアウトプットによって資本の増加、減少、変換をもたらすプロセス」と定義しています。つまり「価値創造ストーリー」とは、ステークホルダーに対して「価値創造プロセス」【図表2】を、ストーリー性を持って分かりやすく説明するものと言えます。

【図表2】 旧IIRCの価値創造プロセス図

図 旧IIRCの価値創造プロセス図

(出所)旧IIRC「国際統合報告フレームワーク 日本語訳」より当社作成

「価値創造ストーリー」を記載する際に押さえるべき3つのポイント

「価値創造ストーリー」を記載する際には、旧IIRCのフレームワークを参考にしつつ、「①資本の言語化、②ビジネスモデルの定義、③ESGの論点設定」を押さえることが重要です【図表3】。

「①資本の言語化」では、まず自社の資本を6つに分類します。大別すると、財務資本と非財務資本(製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)に分類されます。そのうえで、6つの資本を自社の強みとして簡潔・明瞭に言語化します。たとえば、株式会社ダスキンが発行した「CORPORATE REPORT 2021(ダスキン統合レポート)」では、「社会・関係資本」の解説として、地域の加盟店オーナーやスタッフへの人材育成について説明をしています。生まれ育った地域で事業を営む加盟店オーナーやスタッフの人材育成に注力し、ダスキンのサービス品質を確保したうえで、市場特性に応じた地域住民に対するサービス提供を行うことが、自社の競争優位確保に繋がることを示しています。

「②ビジネスモデルの定義」では、自社の強みとして言語化した6つの資本を生かして、事業活動で生み出すアウトプット、およびステークホルダーに影響するアウトカムを明確に定義する必要があります。具体的なイメージでは、事業活動を経営戦略、アウトプットを経営目標、アウトカムをビジョンとして表現します。日本航空株式会社が発行した「JAL REPORT 2021」では、自社の6つの資本を活用した経営戦略(事業戦略、財務戦略、ESG戦略)と、それらに基づくアウトプットとしての経営目標(財務、非財務)ならびにアウトカムとしてのJAL Vision 2030(安全・安心、サステナビリティ)が示されています。

「③ESGの論点設定」では、まずESGに関連する項目を「価値創造プロセス」フレームワークとひも付けることが必要となります。E(環境)は「自然資本」、S(社会)は「社会・関係資本」や「人的資本」、G(ガバナンス)は「ガバナンス」が該当する項目となります。以上のESG項目を、自社の経営戦略上の重要課題として特定し、定性的・定量的な目標(KPI)として設定します。たとえば、東急不動産ホールディングス株式会社が発行した「2021統合報告書」では、ありたい姿を実現するために、事業活動を通じてESG項目を含む6つのマテリアリティに取り組むとしています。これら6つのマテリアリティは、ステークホルダーにとっての重要度と、優先順位の高い経営課題の2軸で評価・特定されており、定性的な状態目標と定量的な非財務KPIが設定されています。

【図表3】 統合報告書に「価値創造ストーリー」を記載する際の3つのポイントと例示企業一覧

図  統合報告書に「価値創造ストーリー」を記載する際の3つのポイントと例示企業一覧

(出所)各社の統合報告書より当社作成

以上の「①資本の言語化、②ビジネスモデルの定義、③ESGの論点設定」は、個別に検討をするものではなく、ストーリーとして相互に関連・結合するものとなります。このポイントを押さえることで、ステークホルダーに対して「価値創造プロセス」を、分かりやすく説明することが可能になるでしょう。

【経営戦略・経営計画ページ】
https://www.murc.jp/service/keyword/01/

【資料DLページ】
中堅中小企業における中計策定状況とトレンド反映型中計の必要性

 

国際統合報告評議会(IIRC)は、価値報告財団(VRF)を経て2022年に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に統合されています。

株式会社ダスキン「CORPORATE REPORT 2021(ダスキン統合レポート)」(2021年)

日本航空株式会社「JAL REPORT 2021」(2021年)

東急不動産ホールディングス株式会社「2021統合報告書」(2021年)

執筆者

  • 大野 知也

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    シニアマネージャー

    大野 知也
  • 川田 真寛

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    コンサルタント

    川田 真寛
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