サステナビリティ(環境・資源・エネルギー・ESG・人権)

地域の資本循環を生む「サステナブル・ツーリズム」

2023/01/11 齊藤 美波
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人口減少が著しい日本において、今後拡大し得る数少ない市場のひとつが観光産業です。事実、2011年からコロナ禍前の2019年にかけて、訪日外国人旅行者数・出国日本人数は増加の一途を辿っていました[]。コロナ禍で急激な落ち込みはあったものの、外国人受け入れが本格的に再開された2022年10月からは、訪日外国人数は再び順調に増加しています。コロナ禍による未曾有の危機を経験した今、日本国内で持続性のある観光産業を展開していくためには何が求められているのでしょうか。本稿では、「サステナブル・ツーリズム」のあり方を考察します。

「サステナブル・ツーリズム」の定義と、地域産業として目指すべき資本循環の構造

「サステナブル・ツーリズム」とは、観光デスティネーションである受け入れ側も、観光産業によって経済的にも政治的にも社会・文化的にも持続的に発展することを最大の目的として考えようという動きと定義されています(島川、2020[])。サステナブル・ツーリズムは、一般的には地球環境破壊やオーバーツーリズムへの対策等にフォーカスされやすいですが、真に「受け入れ側の持続的発展」を目指すには、「地域資本の循環構造を生み出す」という視点が求められます。

その背景にあるのが、観光業界の業界構造です。観光産業に含まれる多くの業界が装置産業であり、必要な投資資金が高額[]となります。一方で、小規模事業者が大半を占める[]ため、発展の起点となる資金の調達と投資が十分になされない状況に陥りがちです。そのため、地域観光振興を検討する際、キャンペーン・PRやチケットのデジタル化等、大きな資本投下が不要な「需要」喚起の施策が真っ先に検討される傾向にあります。しかし、「供給」体制が伴わないままでは観光客入込数の増加や周遊の持続的な底上げにはつながりにくいため、受け入れ側が享受するメリットは限定的なものとなってしまいます。

そこで必要となるのは、受け入れ側が主体的に資本の結集・投下を行い、宿泊/観光施設やモビリティ等のハードを中心とした供給を充実させ、収益を自らに還元させるという循環構造の創出です。

【図表1】観光産業が生み出す地域資本と収益還元の循環構造
観光産業が生み出す地域資本と収益還元の循環構造
(出所)当社作成

 具体的な取り組み事例

上記の循環構造を体現している事例のひとつに、北海道富良野市の「ふらのまちづくり株式会社」の取り組みが挙げられます[]。同社は地元企業を中心に、市・商工会議所、さらには地域住民も資本参画する「公益的デベロッパー」として、市の重要な観光拠点である複合商業施設「フラノマルシェ」や「コンシェルジュフラノ」、健康増進施設「ふらっと」等を造成しました。とりわけ「フラノマルシェ」は、すべて地元事業者が出店し、販売商品も地元企業商品を取りそろえ、工事の発注先は地元企業としたことで、オープン以来7年間で経済効果は98億円、さらに周辺にも40店舗以上が新規に創業、雇用効果は100名以上等、まさに地域共創により地域内に帰属する持続的な豊かさが生み出されています。コロナ禍で客数・売上減少の問題に直面したものの、地元農業者・食品加工業者を巻き込んだ新商品開発等、地域内の収益還元を意図的に設計した「供給」強化の施策を行いながら、持続性の強化を図っています[]。

このように、地域ステークホルダー中心の資金調達および投下による地域資本のアップデートと、その便益の地域内還元というエコシステムを意図的に設計することは、まさに本稿で論じてきた「サステナブル・ツーリズム」のあり方そのものです。受け入れ側となる地域は、このような動きを巻き起こすことで持続的な発展を目指すべきであり、当社をはじめとする地域横断企業はその仕掛け人として、サステナブル・ツーリズムを実現するための仕組みづくり・支援をしていく存在でありたいと考えます。


(出所)
観光庁HP
島川崇(2020)『新しい時代の観光学概論』、ミネルヴァ書房
建築物の数あたり工事費は全産業平均の最大10倍程度:観光庁「観光を取り巻く現状及び課題等について」(2021年11月25日)
宿泊業者65%は資本金1千万円以下:観光庁「観光を取り巻く現状及び課題等について」(2021年11月25日)
(参考)
ふらのまちづくり(株)「フラノマルシェとまち育て 公民協働で中心市街地を活性化」(2019年9月26日)
富良野の魅力発信!選ばれる商品の開発とプロモーションの実施【ふらのまちづくり株式会社】(富良野市)

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  • 齊藤 美波

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