コラムシリーズ第1回「EATモデルを活用した異文化理解教育(1)」では、グローバルビジネスを円滑に進めるために異文化理解教育が求められている日本の状況と、ケーススタディ等を通じて体験したうえで理論を学ぶことで、参加者の理解度を深化させる「EATモデル」という研修デザイン手法について解説しました。本コラムでは、当社が提供しているグローバルリテラシー研修における異文化ケーススタディの実践事例をご紹介します。
当社のグローバルリテラシー研修における異文化ケーススタディ事例
EATモデルにおける「経験」として、「ケーススタディ」によって疑似体験をしてもらうことがあります。業務や生活の中で異文化理解の機会が少ない環境下にある参加者同士でも、議論を行い、気づきを得ることができるため、ケーススタディを盛り込んだ研修は有効です。本研修で用いるケーススタディの一例は以下の通りです。
あなたは日本人・大学4年生のマサです。大学1年生からコンビニエンスストアでアルバイトをしており、バイトリーダーを担っています。人と接することが好きで、初対面の人とのコミュニケーションは苦になりません。ただし、海外経験はほとんどありません。バイトリーダーとして以下の状況でとるべき行動を考えてください。
登場人物1:セルジオ(32歳・ブラジル出身)…コンビニ勤続1年。明るく、おしゃべり好き。大雑把
登場人物2:リリー(20歳・中国出身) …コンビニ勤続3か月。プライドが高く、寡黙で押しが強い
登場人物3:レイラ(22歳・トルコ出身) …コンビニ勤続1か月。気さくで前向き。噂話が大好き
【状況①】
お客様の来店が少なくなる時間帯、店内にはおしゃべりなセルジオの声が響き、鼻歌すら聞こえてきます。
先日セルジオに、経験の浅いレイラのトレーナーを依頼したのですが、指導している様子があまり見られません。
そこでマサは、セルジオが休憩のためにバックヤードに入ろうとしたとき、彼を呼び止め、尋ねました。
「セルジオ、レイラはどんな感じ? 大丈夫?」
「マサ、大丈夫だよ。レイラはとても理解があるからね!心配いらないよ!」
その後もセルジオがレイラに何かを教えている姿は見られず、セルジオは冗談ばかり言ってご機嫌に勤務しています。マサはどのような行動をとるべきでしょうか。
実際の研修では複数の選択肢が示され、参加者同士でどの選択肢が妥当であるか議論します。ポイントは、「絶対解」は存在しないということです。あくまでも、「どの選択肢が比較的妥当か」という「妥当解」の視点で、自身の経験等も踏まえて考えてもらいます。
参加者からは、「厳しく注意しすぎると、退職してしまう懸念があるのではないか」「抽象的な表現では意図が伝わらないのではないか」といった意見が挙がり、議論が活発になされます。こうした議論を通して、参加者は日本の文化的特徴や、異文化コミュニケーションに関しての「気づき」を得ていきます。
議論を経た後に、講師が理論の解説を行います。今回のケーススタディの場合、「ローコンテクスト」や「ハイコンテクスト」といった考え方を説明し、エリン・メイヤーが開発した「カルチャーマップ」[ⅰ]における日本の位置づけを解説します。ちなみに、日本は極端にハイコンテクストな文化とされています。
そして、講師が「グローバルビジネスにおけるコミュニケーションでは、ローコンテクストなやりとりが基本」といったポイントを伝え、理論を職場でどのように活かせるかという話題へと展開します。
このようにケーススタディによって疑似体験をし、参加者同士での意見交換を経たうえで、講師が理論を解説し、実際の現場で留意すべき点を伝えることで、研修の効果は高まります。
理論を学ぶこと自体は書籍でも可能ですが、参加者同士で議論して気づきを得るということは研修という形でなければ難しいでしょう。
まとめ
今回は、異文化ケーススタディを用いた実際の研修プログラムの一例をご紹介しました。本研修の事後アンケートでは、「グローバルでのビジネスシーンで衝突する問題をケーススタディで追体験することで、その難しさや対応のヒントを学ぶことができた」などといったコメントが寄せられ、EATモデルでの研修デザインが有効だったこともうかがえます。
次回のコラムでは体験型演習を活用したプログラムをご紹介します。
【関連サービス資料】
グローバルリテラシー研修
[ⅰ] エリン・メイヤー著 「異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養」(2015年)
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