人事の現場で活きる法令実務Tips―障害者雇用(1)~法律の解説~

2023/06/28 吉田 英里
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2020年に人材版伊藤レポート(経産省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」)が公表されて以降、「人的資本経営」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。2023年1月に公布・施行された内閣府令で、人的資本情報が有価証券報告書において開示義務となり、本格的に自社の人的資本経営を検討し始めている企業もあると推察します。人的資本経営を進めるにあたり、その重要な要素であるダイバーシティ&インクルージョン促進の重要性が高まっています。

この流れを受け、障害者雇用も、「量」から「質」へ変わろうとしています。
コラムシリーズ「人事の現場で活きる法令実務Tips」では、計2回にわたり障害者雇用について取り上げます。
1回目となる今回は、直近の法改正を含む障害者雇用を取り巻く法律解説、2回目はこれからの障害者雇用のあり方・実務の要点について解説していきます。
※本コラムでは、厚生労働省の記載通り、「障害者」と表記します。

障害者雇用に関する直近の動向

障害者雇用に関する直近の動向として、2022年12月10日、障害者総合支援法等の一部を改正する法律(「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」)が成立し、これに伴い、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、「障害者雇用促進法」)も改正されました。また、法定雇用率の段階的引き上げも決定しています(2024年4月~)。
今回の改正で注目すべきは、「障害者雇用と障害者福祉の連携をさらに進めること」、「雇用義務の対象となる障害者の範囲を拡充すること」に加え、「障害者雇用の質の向上を進めること」が言及されている点です。

「量的観点を重視した」これまでの障害者雇用

そもそも、障害者雇用促進法の目的は、「障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ること(第一条)」です。従来は、企業に対し、法定雇用率を定め雇用義務を課すことで就労機会の確保・拡大の実現を目指す、“量的観点”が重視されてきました。法定雇用率を上回った場合には「障害者雇用調整金」を支給し、下回った場合には「障害者雇用納付金」を徴収するという、いわばアメとムチの両施策をもって雇用義務の実効性を高めてきたのです。法定雇用率未達成が続き、公共職業安定所長による「雇入れ計画の適正実施勧告、及び特別指導」を受けてもなお改善が見られない場合には、企業名公表に至ることもあります。このように、企業の障害者雇用への取り組み態度・実施状況は、社会的信頼や企業価値に関わる重大な問題ともなり得るため、いかに障害者雇用「枠」を確保するかが最大の課題でした。

そこで企業の悩みとなっていたのが、障害者雇用を進めるにあたり「新たに業務を創出する必要がある」ということでした。企業は、社内の業務を棚卸ししたうえで、判断要素が少なく、安心・安全に従事しやすい反復定型業務を切り出して再構成し、業務を創出することから始めなければなりません(いわゆる「切り出し・再構成モデル」[])。そして、法定雇用率が上がるたびに企業はこれを繰り返し、辛うじて雇用枠を確保してきました。近年では、自助努力での雇用枠確保が難しくなった場合、いわゆる「農園型障害者雇用」等の施策を取り入れる事例も見受けられます。このように、これまでの“量的観点”を重視した障害者雇用では、法定雇用率を満たすこと自体が目的となっていた企業も少なくなかったのが実態といえるでしょう。

「量」から「質」へ

この実態に対し、今回の法改正では、努力義務とはいえ “職業能力の開発及び向上に関する措置”が含まれることが明確化されました。つまり、“質の観点”が求められるようになったということです。これからは、企業が個々の障害特性を理解したうえで適性に合った業務・役割を付与する等、キャリア形成を支援しつつ、障害者が安定的な就労を得る機会に加え、能力発揮に応じた適切な賃金を得る機会を検討していく必要があります。

では、どのように“質”を高めていけばよいのでしょうか。第2回では、関係各所との連携や、人的資本経営の観点も入れながら、実務の要点を解説します。

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[] 『調査研究報告書No.133「精神障害及び発達障害者の雇用における職務創出支援に関する研究」』独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(最終確認日:2023/6/20)

執筆者

  • 吉田 英里

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第2部

    マネージャー

    吉田 英里
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