本コラムは、国内に複数の子会社を持つ企業グループ[ 1 ]において、グループ全体で定年延長[ 2 ]を制度化するメリットや押さえておきたいポイントを2回にわたって解説しています。第1回は、グループ全体で定年延長を実施する際のメリットについて取り上げました。第2回では検討時の具体的なステップと実務上のポイントについて解説します。
グループ全体での定年延長検討時の実施主体と役割分担
国内に複数の子会社を有する企業グループが定年延長を実施する場合、まずはグループ内の中核企業(主に親会社)において先行実施した後、グループ内の各社(以下、各社)へと展開していくケースが一般的です。この際、実施主体と役割分担を検討することになりますが、具体的に取り入れることが有効なポイントが3つあります。
(1)定年延長実施済みの中核企業をPMO(取りまとめ役)として設定する
グループ全体で定年延長を推進する上では、各社が足並みをそろえて効率的に検討を進められるように、PMO(取りまとめ役)を設定します。このPMOは、定年延長の検討の進め方を決定し、各社の進捗管理などの役割を担うため、先行実施済みで検討の全体像を把握している中核企業が担うのが効率的です。
(2)定年延長を同時期に実施する企業集団を、年度ごとに複数に分けて編成する
(1)で設定したPMOのリードの下で、定年延長を同時期に実施する企業集団(以下、「集団」)を編成します。この際、定年延長を実施する時期(年度)ごとに各社を複数の集団に分け、すぐに対応する体力のある企業は先に、なかなかリソースを割けない企業は数年後に、といったように各社の状況を踏まえ、グループとしては数年かけて定年延長を実施していくことが有効です。複数に分けることで各社においては現実的に対応可能な時期の設定が可能となり、グループとしては前年度の経験で得たノウハウを活用できます。また、各年度で実施する社数を限定することにより、おおよその検討時期等をそろえられるため、PMOの取りまとめの手間を分散させることにもつながります。
(3)PMOのリードの下で、あらかじめ定めたガイドラインに沿って集団ごとに検討を進める
(2)で設定した各集団は、定年延長の時期と検討プロセスを共有していることから、集団ごとに検討の進め方に関するルール等をガイドラインとして定め、展開することが可能です。PMOのリードの下、このガイドラインに沿って各社が検討を進めていくことで、各社が定年延長を行う際に要するコスト・所要時間を低減し、設計する人事制度について、一定以上の品質を担保できます。
ガイドライン作成の詳細は次章「具体的なステップと実務上のポイント」の「Step1立ち上げ」で取り上げます。
上述した実施主体(中核企業をPMOとして設定)と各社の役割分担を前提に、グループ全体で定年延長を実施する際の進め方について解説します。
具体的なステップと実務上のポイント
グループ全体での定年延長検討の具体的なステップは1立ち上げ→2計画→3実行→4進捗管理・フォロー→5終結の大きく5つに分かれます[ 3 ]。グループ全体で数年かけて段階的に実施していく場合、まずは初年度での第1集団を対象とする定年延長において具体的な検討ステップの枠組みを設計し、翌年度の第2集団以降は前年度までの経験で得たノウハウを基に、適宜アップデートしながら検討を進めるケースが多くなっています。
そこで今回は、架空の国内企業グループにおいて、初年度(第1集団)の定年延長を検討する際の具体的なステップとPMOが留意すべきポイントを紹介します。
Step1立ち上げ
まず、PMOは各社が検討を進める際のガイドラインを作成します。定年延長に関する検討論点とその選択肢、先行実施している中核企業の事例等については、各社が検討する際に特に関心が高い部分となります。そのため、ガイドライン内でそれらを整理しておくことが有効です。
また、グループとして方針をそろえたい点があれば明確にしておきます。例えば、グループ内において各社が加入するDB(確定給付企業年金)がある場合は、グループ内で改定の時期や手続き等をそろえるケースが多くみられます。後述するStep3の定例会議にて基金の手続き等に関してまとめて案内すれば、専門性の高い取り組みを効率的に進めることが可能です。
加えて、当該年度に実施する企業を、各社の意向を踏まえてPMOが調整・選定します。企業の調整・選定にあたっては、グループ内の代表的な事業を行っている企業や、定年延長の検討に要するリソースを確保可能な企業から優先的に選定することがポイントです。そうすることで、実現可能性が高まるとともに、当該年度に実施した企業の事例を次年度以降の他社のモデルケースとして活用できるようになります。
Step2計画
PMOは定年延長の時期(ゴール)から逆算し、各論点の検討スケジュールの目安とグループ全体の定例会議を設定します。各社において、定年延長の直近対象者向け説明等の移行手続きを丁寧に行えるよう、余裕を持ったスケジュール設定が必要です。
Step3実行
PMOはStep2の計画に沿って定例会議を開催し、ファシリテーションおよびガイドラインの解説を行います。各社は定例会議に参加し、ガイドラインの内容に沿って個別に検討を進めます。検討に際し大きな手戻りが発生することを防ぐため、各社が必要なタイミングで経営層や労働組合とコミュニケーションを取るように、PMOからも声かけすることがポイントです。
Step4進捗管理・フォロー
まず、PMOはStep2の計画通りに各社の検討が進められているかを確認します。進捗管理の際は、多数の企業の状況を効率的に把握するため、全企業共通のフォーマット等で一元管理することを推奨します。
また、進捗が(大幅に)遅れている企業に対しては、状況を個別に確認するため、必要に応じて定例会議とは別に各社からPMOへの個別相談の場を設定し、各社が具体的にどこでつまずいているのかを把握した上で個別フォローを行うことが必要です。
Step5終結
各社は予定していた時期に合わせて定年延長を実施し、PMOは各社が予定通りに実施できたかどうかに加え、各検討論点において最終的にどの選択肢を取ったのかを確認します。確認結果を基に、次年度以降で使用するガイドラインをアップデートし(次年度のStep1)、モデルケースとなる事例については、検討プロセスや制度内容を詳細に整理した上で、次年度以降の検討を進める際の指針とします。
まとめ
本コラムでは、グループ全体で推進する定年延長のメリットや押さえておきたいポイントについて解説しました。先行実施済みの中核企業がPMOとして各社の取りまとめを行い、前年度までの経験で得られたノウハウを適切に蓄積・活用していくことで、グループにおける検討を効率的に進められます。また、今回ご紹介した検討時におけるグループ内の役割分担や進め方については、定年延長以外の人材マネジメント施策を推進する際にも応用可能ですので、ぜひご活用ください。
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国内企業グループの定年延長(1)~グループ全体で実施するメリット~
定年延長とシニア人材の活躍推進
[ 1 ] 本コラムでは、グループを「資本関係のある企業の一連のまとまり」と定義する
[ 2 ] 本コラムでは、定年延長を「企業が定める定年年齢を61歳以上に延長すること」と定義する
[ 3 ] 「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」(プロジェクトマネジメント協会)における「5つのプロセス」を基に設定
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