Z世代を読み解く(3)~若手のモチベーションを高めるコミュニケーション(1)~

2024/04/15 宮本 直樹
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「今どきの若手は何を考えているのか分からない」、「打たれ弱くて指導しづらい」、「訳も分からず辞めてしまう」
近年若手と接するリーダーからは、こうした意見をたびたび耳にします。若手とのコミュニケーションが重要であることは分かっているものの、具体的にどう対応すればよいか分からない、というのがリーダー層の本音ではないでしょうか。
本コラムでは2回にわたって、「デジタルネイティブ」と呼ばれる近年の若手の特徴を読み解き、それに応じたコミュニケーション手法をご紹介します。

「デジタルネイティブ」とは

デジタルネイティブとは、幼少期からインターネットやSNSが身近な環境で育った世代を意味します。1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた世代を指す「Z世代」とほぼ同義で扱われる表現です。
デジタルネイティブを対象にしたインターネット調査で、勉強や仕事で分からないことを調べる際に活用する手段について尋ねると、約94%が検索エンジンを活用する一方、書籍で調べると回答したのは約21%にとどまりました(複数回答可)[ 1 ]。デジタルネイティブは、欲しい情報があった時、デジタルツールを駆使して即座に手に入れる習慣が身に付いているといえます。しかし、社会に出てからの仕事を進めるにあたっては、インターネット上に明確な答えが存在しないスキルや知識の掛け合わせが重要です。情報収集力があっても活用の仕方がわからない、臨機応変な対応に苦労する、といったように、デジタルネイティブがビジネスシーンで壁にぶつかることは想像に難くありません。

【図表1】デジタルツール年表(国内サービス開始年)
デジタルツール年表(国内サービス開始年)
(出所)当社作成

「タイパ」重視の価値観

タイパとは、タイムパフォーマンス(時間対効果)を意味する略語です。デジタルネイティブのタイパ志向が如実に表れているデータとして、この世代を対象にした映像コンテンツの楽しみ方に関する調査結果[ 2 ]があります。同調査では動画配信系サブスクリプション登録者の85%がタイパを「重視する」と回答し、視聴態度については約8割が「ながら見(別の作業を見ながら映像を見る)」を、約半数が「スキップ再生(映像を飛ばしながら見る)」「倍速視聴」「ネタバレ視聴(事前に結末を知ってから視聴)」をよくする、たまにすると答えました。同調査について、発表元のSHIBUYA109 lab.長田麻衣所長は、「(Z世代は)自分が価値を感じることに時間やお金を充て、それ以外は節約していきたいという観点から、メリハリをつけ、限られたリソースを上手に配分しているのが実態です」とコメントしています。この傾向について「無駄を許す余裕のない低成長の社会が背景にあり、生存戦略としてタイパやコスパを最大限高められる方法を探しているように見えます」とライターの稲田豊史さんは指摘しています[ 3 ]。このように、社会的背景からそうならざるを得なかったともいえる、デジタルネイティブの「タイパ」重視の価値観は、趣味に限らず、職場でも反映されているものと考えられます。

SNS文化で育まれた空気を読む力

SNS上のコミュニティは手軽に情報収集や発信ができ、交友関係を広げられる一方、集団の価値観にそぐわない発言はたたかれ、瞬時に仲間外れにされかねないという新たな「ムラ社会」を形成しています。デジタルネイティブはこうした「ムラ社会」で生き残る手段として、相手によって自分の見せ方を調節するといったキャラクターの巧みな使い分けをするケースがあります。コミュニティにおいては誰しも少なからずそうした傾向があるものですが、彼/彼女らはオンライン、オフラインを問わず、相手の出方を四六時中うかがいます。大学生を対象とした調査では、円滑な人間関係を築くうえで重視していることとして、細かな気配り、傾聴、空気を読む力が上位3項目に挙がっています[ 4 ]。これらはこの世代が身に付けた処世術である一方、職場においては「主体性が乏しい」とみなされてしまうおそれもあります。

Z世代にとっての「いいね」とは

デジタルネイティブはSNS文化の中で疲れや苦しみも感じているという調査もあります。調査結果によると、この世代の半数がSNS疲れを感じ、その主な理由として、いや応なしに他者と比較してしまうこと、他者の反応を気にしすぎてしまうことが挙がりました[ 5 ]。SNS上で「いいね」やポジティブな反応をもらうたびに、脳内ではドーパミンが分泌されることがさまざまな研究で明らかになっています。ドーパミンは脳内報酬とも呼ばれ、モチベーション向上に起因する物質であり、さまざまな依存症の原因にもなります。また、SNS依存傾向の高い人は、「いいね」数が少ない時、その背景に「いいね」をしなかった人の存在が浮かび上がり、彼/彼女らから低評価を受けている感覚に陥ることで、強烈な不安が喚起されると言われています[ 6 ]。このようなSNS文化の特徴も踏まえると、物心ついたころからSNSに慣れ親しんでいる近年の若手が強い承認欲求を有する背景が分かりやすくなるでしょう。

次回のコラムでは、こうした若手の特徴を踏まえた具体的なコミュニケーション手法をご紹介します。

【参考文献】
平賀充記『イライラ・モヤモヤする今どきの若手社員のトリセツ』32-33頁(株式会社PHP研究所、初版、2022/3/29)

【関連サービス資料】
Z世代リテンションプログラム

【関連サービスページ】
組織活性化
人材育成・研修

【関連コラム】
Z世代を読み解く(1)~協働のためのZ世代理解~
Z世代を読み解く(2)~Z世代のモチベーションの源泉とは~
Z世代を読み解く(4)~若手のモチベーションを高めるコミュニケーション(2)~


【引用文献】
1 ]マイナビ転職「Z世代の『情報収集』事情を深堀り」
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/ziken/06/(最終確認日:2024 /4/4)
2 ]株式会社SHIBUYA109エンタテイメント「Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査」
https://shibuya109lab.jp/article/220818.html(最終確認日:2024/4/4)
3 ]「もっと速く、もっと多く、もっと効率よく 行き着いた『タイパ社会』(2022年12月27日)」
https://www.asahi.com/articles/ASQDT056TQDHPTIL018.html(最終確認日:2024/4/4)
4 ]公益社団法人東京広告協会「大学生の人間関係とキャラクターに関する意識調査」
http://www.tokyo-ad.or.jp/activity/seminar/pdf/FUTURE2018_full.pdf(最終確認日:2024/4/4)
5 ]林裕之、森健「Z世代の“SNS疲れ”から生まれる一人行動ニーズ」野村総合研究所
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/0202_1(最終確認日:2024/4/4)
6 ]川端久美子、中田悠理、木谷庸二 「SNS における『いいね」がユーザーに与える心理的影響とその表示方法に関する研究」 日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第64回春季研究発表大会 236頁(2017)

執筆者

  • 宮本 直樹

    コンサルティング事業本部

    組織人事ビジネスユニット HR第4部

    アソシエイト

    宮本 直樹
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