「とっとり未来予想図プロジェクト」による地域活性化の取り組みと今後の課題~県民と“バックキャスト”で未来を描く~
人口減少・少子高齢化や、それにひもづく経済縮小といった課題を背景に、地域活性化の必要性が年々高まっています。本コラムでは、地域活性化に向けた動きを加速させる取り組みとして、当社が企画運営面で関与し、鳥取県政策戦略本部とっとり未来創造タスクフォース、三菱電機株式会社(以下、三菱電機)と協働で行う「とっとり未来予想図プロジェクト」を取り上げます。具体的には、2024年3月にプロジェクトの一環で実施した「県民参加型ワークショップでの未来探索の取り組み」について、そこで得た気づき・課題・今後の方向性をご紹介します。
県民参加の取り組み 「とっとり未来予想図プロジェクト」
(1)背景と目的
鳥取県は、人口減少・少子高齢化をはじめ、今後の日本が直面する社会課題がすでに顕在化していることから、「課題先進地域」と言われます。それらの課題解決を推進するためには、将来を担う若者の意見が政策立案・実行に欠かせないとの考えから、県は2023年7月、25~33歳の若手職員で構成する知事直轄の新部署「とっとり未来創造タスクフォース」(以下、タスクフォース)を発足させました。
タスクフォースが掲げるミッションである「30年後の鳥取県を創る」を考えるに当たり、広く県民とビジョンを共有することは欠かせません。そこで、若者世代と共に「ビジョン」に当たる未来予想図の作成を通して、鳥取県の未来の可能性を探索する、「とっとり未来予想図プロジェクト」がスタートしました。本プロジェクトはタスクフォース、三菱電機、当社の3者が参画して鳥取県独自の未来予想図を構築し、地域の未来づくりを自分ごととして捉えて実行していく人材の育成や、理想像からの「バックキャスト型」の政策立案の検討を目指しています。
(2)プロジェクト全体の特徴
本プロジェクトの主な特徴は、「1.三菱電機の未来価値洞察®[ 1 ]の特性を生かしたバックキャストによる検討」、「2.未来予想図が実際に活用されることを想定した設計」の2点です。
1.に関して、従来の将来予測は、参加者の想いや課題認識から検討を始めることが多く、結果、現在からの延長にある未来になりがちです。一方、今回は三菱電機の未来価値洞察®により、多くの未来視点が含まれるシナリオを起点にバックキャストで検討を行うことで参加者の発想が広がり、現在からフォーキャスト的に積み上げて検討する未来のシーンとは違った、現在の延長線上にはない未来のシーンを描くことができます。
2.に関して、従来のワークショップはその開催自体や成果物の作成自体が目的化し、その後どのように成果物が活用されるかといったイメージに至らず、結果、活用にまでつながらないケースがあります。そのため、本プロジェクトではワークショップの設計段階から最終的な目的や発信方法から逆算し、次の展開・活用まで取り組みをつなげられるよう検討しており、成果物である未来予想図について「実際に活用され、地域に実装されること」を目指しています。【図表1】。
キックオフイベント「とっとり未来探索ワークショップ~鳥取県の30年後の未来シナリオを考えよう~」の開催
「とっとり未来予想図プロジェクト」のキックオフイベントとして、2024年3月9日に鳥取市内にて「とっとり未来探索ワークショップ」を実施しました。ワークショップでは、約5年後から25年後に起こり得る事象のインプット、情報の抽出や将来像に関する議論を通じた未来シナリオの洞察や言語化を行いました【図表2】。
ワークショップで得られた気づき・課題
本ワークショップを実施し、「2.未来予想図が実際に活用されること」を想定した設計に関して、今後のプロジェクトをより良くするための気づきや課題が得られました。
設計・運営段階においては、チーム編成により顔見知りの多いチーム・少ないチームが出てきてしまい、議論の盛り上がりに差が生まれました。議論が盛り上がること自体にも意義はありますが、盛り上がりの要因が討議によって生まれた共通項や意見交換ではなく、当事者間の共通のコミュニティーなどで得られた共通項である場合は、同質な議論になる面も見受けられました。また、参加者にとっては普段の活動範囲を超えてワークショップで交流をすること自体が価値となっていました。そのため、プログラム以外の交流の時間を設けることも重要です。また、波及性のある未来予想図を作成するには一つの地域に偏らず複数地域のアイデンティティーを持つ参加者を募ることが有効と言えます。
アウトプット段階では、各参加者が未来シナリオを作成、短時間のワークショップの実施途中でも個性的かつ面白い意見が豊富に生まれました。一般的にワークショップを実施した場合、最終的な成果物に価値が見出される傾向がありますが、思考プロセスも価値ある情報として抜け落ちなく記録をしていく必要があると言えます。また、これらのアウトプットは抽象的になる傾向がありますが、今後、政策立案や鳥取県への関心・愛着の醸成に結び付けるために、実際に未来予想図を利用する人・団体を想定した活用方向性を検討し、ロードマップを作成して社会実装へと取り組んでいくことが課題となります【図表3】。
2024年度における取り組みの方向性
2024年度の「とっとり未来予想図プロジェクト」では、上記の気づきや課題を踏まえて、取り組みの狙いや位置付けをさらに明確にしながら、作成した未来予想図を、県庁内だけでなく地元企業や教育機関、県民など幅広いステークホルダーに認知してもらい、未来の可能性の探索や具体的アイデア発想を促すような発信も検討しています。さらに、未来予想図が有効に活用されるために、県民の皆さまをはじめ、基礎自治体や事業者、研究機関・団体などとの連携も同時に目指します。
当社では鳥取県のプロジェクトの成果が他地域にも広がることを想定し、今後も地域社会の未来へ貢献する取り組みを続けてまいります。
[ 1 ]未来価値洞察:三菱電機の開発した、バックキャスト型の将来予測手法
三菱電機オフィシャルサイト:https://www.mitsubishielectric.co.jp/foresight/
以下、「とっとり未来探索WS(2024年3月9日実施)」チラシ掲載文より引用。
「テクノロジーの進化や社会情勢・環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にある現代は「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。将来の予測が難しい時代だからこそ、膨大な量の小さな変化の兆しをいち早く収集・分析・考察し、気づきを得ることが重要になってきた現代において、今は見えないがやがて大切になる未来の価値を創出し、より良い未来を考える手掛かりをつかもうとしているのが三菱電機 統合デザイン研究所が取り組んでいる「未来価値洞察®」です」
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