知的財産評価の難しさ

2007/03/19 渡部 博光
知的財産

平成14年2月の内閣総理大臣施政方針演説で、国家戦略として知的財産戦略の必要性が訴えられてから、早いもので5年になる。この間、知的財産戦略が国策として進められ、現在も、知的財産推進計画2007が策定されようとしている。

知的財産推進計画は、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」が正式な名称である。この名称の通り、知的財産戦略とは、知的財産の創造、保護、活用にかかる政策であるが、最終の目標は、知的財産を活用すること、つまり、研究開発の成果を産業に結びつけ、知的財産をもって国を興すことにある。

知的財産の活用には、当然、知的財産の評価が必要である。しかし、この知的財産評価が極めて難しい。知的財産の評価が難しい理由はいくつも挙げられるが、簡単にいえば、知的財産は技術であり、ビジネスを行う上での手段であることに起因している。つまり、これをどう使うかで、ビジネスの成否を左右することになるが、逆に絶対的な基準もなく、評価は、ある前提下での想定にならざるを得ない。

このように、知的財産戦略の要である、知的財産の評価の難しさは、いまでは広く知られることとなり、評価はできないと思っている人も多いが、実は、大企業では、日常的な業務として知的財産の評価を行っている。企業は、従業員である発明者から発明の譲渡を受け、特許庁に出願を行い、権利を取得するが、この一連の過程で、出願をするか、審査請求をするか、外国出願をするかなどのタイミングで、評価を行っている。評価の項目は、自社事業の役に立つかどうかは当然として、それ以外に、技術的に優れているかどうかの観点も大きなウェートを占める企業が多い。自社の技術体系からみて、技術的にどのように優れているかをみているわけである。

すこし昔の話になるが、筆者は、企業が内部で行っている知的財産評価の観点について日米比較を行ったことがある。米国企業については、十分な調査であったとは必ずしもいえないが、訪問した企業からは、いくつもの大きな示唆を得た。最も驚いたのは、評価の観点の最重要項目として、汎用的な活用可能性があげられていたことだ。これは、自社だけでなく、広く他業種も含めた観点であり、日本企業の考え方とは大きな違いがあることに強い印象を受けた記憶がある。

しかし、考えてみれば、例えば、情報システムの分野でも日本企業は、自社特有のシステムを使うことが多いが、米国企業は汎用的なシステムを使うことも多いなど、同じような例はいくつもあり、先ほどの知的財産評価の違いも、ビジネスの分野で、私たちが、通常もっている認識と合致するところがある。

そんなことを考えると、日本企業が保有している知的財産は、その企業以外の人間が評価できるのか?活用できるのか?という疑問がわいてくる。1つには、日本企業が取得している知的財産は、その企業特有の特殊なものである可能性があげられる。加えて、その知的財産をビジネスに結びつける経営資源が大企業の外では調達しにくいことも関係してくる。知的財産評価の前提となるビジネスの想定が具体性、実現性にかけ、評価結果が漠然としたものになってしまうからだ。

日本では、大企業がビジネスに必要な経営資源(それもその企業特有のもの)を内部に蓄積し、その蓄積された知的資産で強力な競争優位を築いてきたことは、言うをまたないが、逆に言えば、いったん大企業の外にでると、ビジネスを作り上げる資源の調達が極めて困難な現状がある。

金融サービスが社会のインフラであるなら、わが社、わがグループが、日本の知的財産戦略の成功に向けてなにができるのか?知的財産のビジネスにかかわりながら、思索する毎日である。

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