~関西が経済発展地域に転換するために~
関西経済の地盤沈下
関西経済の地盤沈下が言われて久しい。多くの企業が本社機能を首都圏に移転し、失業率は国内でも高い水準で推移してきた。我が国の経済に占めるシェアも減少が止まらない。
今後、経済のグローバル化が進展する中で、関西が経済発展地域に転換するためには、これまでの首都圏や中京圏などとの比較ではなく、独自の地域特性を踏まえつつも世界に目を向けた戦略にシフトし、地域経済のために真に必要な政策に取り組む必要がある。
グローバル化時代に発展するための要件
Thomas L. Friedman の著書、”The World Is Flat”(邦訳「フラット化する世界」(日本経済新聞社))によれば、フラットな世界で発展するためには、(1)フラットな世界への乗り口に接続できるインフラストラクチャ、(2)適切な教育とそれによる知識、(3)法による適切なガバナンスの3点が必要とされている。
ここで、「フラットな世界」とは、従来欧米企業によって先導されてきたこれまでの世界よりもさらに進展し、世界中の企業・個人が経済活動に参加可能な世界のことである。その競争相手は国内ではなく全世界の国・都市圏であり、世界と比較した以上3点の優位性確保が経済発展に不可欠である。
関西はグローバル経済を生き残れるか?
そこで上記3点から関西を概観すると、(1)のインフラストラクチャについては、我が国で最初に高速道路が開通した地域であり、性格を異にする3つの空港(注1)も擁し、スーパー中枢港湾も稼働。さらに光ファイバーも敷設されてきており、ハード面ではフラットな世界への接続が一定確保されている。
(2)の教育と知識については、高い知識・技術水準を有する優秀な人材が世界中から集まるように、居住地・従業地として魅力の高い環境が不可欠な要素となる。関西では、寺社仏閣、食文化・芸能、自然・景観(注2)といった観光資源、バイオ・医療・ロボット産業などの先端技術、高い研究水準を有する学術機関など、比較的コンパクトなエリアに多様な資源・シーズが集積している。さらに「都心に残された最後の一等地」と言われる大阪駅北地区開発により、職住ともに更なるレベルアップが期待される。
(3)のガバナンスについて、大阪湾ベイエリアでは、工場等制限法の撤廃以降、堰を切ったようにフラットパネル(液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、太陽電池)の大型工場やそれらの関連産業、物流関連事業所等の立地が活況を呈している。また、地元行政・経済団体が協力し、危機感を持って企業誘致、経済活動の円滑化に向けた様々な取り組みが進められている。
重要性を増すインフラストラクチャの役割
世界のフラット化が進展する中、関西が既に有している比較優位性を維持し、グローバル経済の中で生き残っていくためには、今後、これらのポテンシャルを如何に高めるかが重要なポイントとなる。
グローバル化が進む経済では、アウトソーシングやモジュール化など、様々な要因が輻輳するため、貿易・資本移動の流れや経済発展の予測は困難である。しかしながら、不利とも言える「極東」という関西の置かれた地理的条件の中、フラットな世界への乗り口に迅速に接続するためのインフラストラクチャの役割は、計画から事業完了までに長い年月を要することも相俟って、今後更に重要性を増してくる。
そのため、関西では、既存高速道路の維持・更新を図りつつ、整備・計画中の新名神、大阪都市再生環状道路などを着実に整備するとともに、既存ネットワーク間に残されたミッシングリンクの解消に取り組む必要がある。特に後者(ミッシングリンクの解消)はミクロな投資であるが、高速交通ネットワーク全体の柔軟性を高め、知識社会に必要とされる冗長性(redundancy)の確保に加え、将来高まる不確実性に対応可能な環境構築への貢献が大いに期待されるため、早急な対応が求められよう。
(注1)関西国際空港は顧客満足度世界9位の空港に選ばれた(2007年度)。
(注2)神戸市はフォーブスの「世界でもっとも綺麗な都市トップ25」で25位に選ばれた(2007年度)
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