自治体職員の本音ベースの提言を顧みて

2008/09/01 平野 誠也
自治体
地方自治体
労働

本年の5月に第2次よい自治体経営を考える委員会(財団法人関西生産性本部)から報告書(http://www.kpcnet.or.jp/uploaded_file/info00000017.pdf)が出されました。委員会の副委員長を務めさせて頂いていましたので、報告書の策定過程も含めて紹介します。
この委員会は、学識者や民間実務者のほか、自治体の職員、さらに労働組合の幹部で構成されています。これらのメンバーが6回集まり、議論を重ね作成した報告書です。そして報告書の執筆は、自治体職員および組合幹部の方が中心となって執筆されたものです。本報告書の特長の第1はここです。事務局がたたき台を作成し、それを委員がいろいろと意見を言って修正したというものではありません。このため、自治体職員の本音ベースの議論と提言がなされています。報告書では、「役所が組織全体として大きなパフォーマンスを上げていくには、「チームの力」、「個人の力」、「やりがい」の3つの力を向上し、それぞれがシナジー効果(相乗効果)を発言するような仕組みづくりが必要」とし、具体的な方策の例として、適材適所の実現、複線型人事、仕事に必要な知識技能の偏重教育を改め個人が伸ばしたい能力を組織がサポートする、労働条件の維持向上にのみこだわるのではなく行政マンとしての志などを強く意識できるようにするなどが必要と結論づけています。一般的な自治体が組織として考える人材育成方針などでは、組織に必要な職員やチームの姿から施策を考えがちでありますので、それと比べますと、職員の本音に近いものが方策として考えられています。その点から、各自治体においても、参考になる内容になっています。
第2の特長は、5つの提言は自治体向けになされたものですが、組織で実践するものだけでなく、個人でも実践できるものも含まれていることです。これは、現場から見た議論を行ったためだと思います。例えば、業務改善運動を「全庁的」に展開するためには組織的な取り組みが必要ですが、1つの支所や1つの課、職員の周辺だけなどでもできます。本運動のコンセプトとして「すべての職員が自らの仕事の価値と意味を認識し、課題を見つけ、自ら解決に取り組むこと」が報告書に掲げられていることからも、まず個人が動くことが重要と提言されています。ほかに、仕事データ・ベースについても、まずは個人で取り組むことも有効ですし、自主研究については、むしろ個人が率先実行していくことが必要なものです。このことから、報告書は例えば行革部門の職員が組織的な取り組みを行うときに参考にするだけでなく、自治体職員個人の方々も、取り組みを実施していけるのではないかと思います。5つの提言については、すべて具体的な取り組み事例も紹介されていますので、それらも大いに参考になると思います。
報告書の特長の第3は、第1とかぶる部分もありますが、自治体職員と労働組合の幹部の方の両者が議論をして報告書をとりまとめたという点です。正直申し上げますと、委員会が始まる前は、どのような会議の場になるのだろうという一抹の不安がありました。このような行革関係の報告書や提言となりますと、組合の立場としては、反対意見が多いだろうと言う危惧がありました。しかし、実際の議論の場では、そのようなことは一切なく、双方の立場から建設的な議論に終始していました。その中で出てきた具体的な提言事項の例が、人材マネジメントシステムにおけるワーク・ライフ・バランスの実現、人事管理基盤としての「職員カルテ」の整備、技能継承(匠の伝承)に向けた「仕事データ・ベース」の整備などです。このような検討過程も参考になると思います。各現場では、なかなか自治体と労働組合とが議論をするということが難しいとは思いますが、少なくとも今回の委員会の中では、進化する自治体づくりというテーマで職員にスポットを当てて検討する際には、両者とも同じ方向を向いて議論ができています。今後、各自治体の行政改革などにあたって、労働組合も含めて議論をしていくことも重要であると思います。

執筆者

facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。