インターネットや携帯電話に代表されるITの普及が急速に進みつつある。オフィスにはOA機器が入り、ひとり一台のPCも当たり前になった。既存の研究では、IT活用の進んだ企業ほど、売上、収益といった企業業績がよく、IT活用の実効が得られている傾向にあるとの報告がされている。一方、業務規模が相対的に小さい中小企業では、IT活用のメリットがいかせる業務分野が限られることもあり、IT活用が大企業に比べて遅れているといわれている。
中小企業では、IT人材の確保、初期投資コストの負担、従業員のITリテラシーのレベルなどIT活用を進める上での課題の多くが、中小企業としての制約に関係しているものである。その対応策としてSaas・ASPなどの活用の必要性が言われ、経済産業省でも中小企業向けSaaSのプロジェクト(注1)を2008年度から始めている。しかし、小規模の企業ほどITに対する理解が不足しており、Saas・ASPの認知度も低いのが現状である。
ただ、IT活用が進んでいる中小企業について事例調査を手がけた経験から分かってきたことは、教科書的なアプローチではなく、各社なりに工夫をこらしてIT活用を進め、売上増大や従業員のモチベーション向上といった効果をあげている多くの企業があるということだった。
こうした企業は、まず、ベンダーまかせではなく、自分たちでイニシアチブをもってIT推進に必要な取り組みを進めている。そのために必要なIT推進の核となる人材を確保するために、ITコーディネータやコンサルタントといった外部資源を活用した会社も多い。また、自社の業務特性や現場のニーズに即したシステムとするためには、必要であれば外部の業者には頼らずに、現場でアプリケーションを自主開発をするといった企業もある。逆に、日本で展開し始めた米国のSaas・ASPサービスを積極的に活用し、ユーザーの立場からベンダーに改良を提案するという企業もある。
このように、経営資源に乏しい中小企業でも、それぞれの会社にあったかたちで課題をクリアし、IT活用を進めていくことが十分できるのである。特に中小企業の場合、個々の企業の経営環境や人的資源、業務の課題にあわせた「身の丈に応じたIT活用」が成功の鍵と言えるだろう。
(注1)中小企業は、経営体力、事業環境等の面で大企業に比べてIT化が進みにくいという認識のもと、安価かつ容易にIT活用による業務効率化を行えるよう、基盤となるシステム開発を行い、財務会計、人事給与、顧客管理、行政手続きなどのサービスをSaaSを通じて提供するプロジェクト。
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