指定管理者制度における官民意識の『ずれ』

2009/11/16 太田 勝久
官民協働
民間企業

指定管理者制度は平成15年の地方自治法の改正から6年が経過し、多くの案件で2期目を迎える中、一定の定着が見られ民間企業への転換も増えつつある。それに伴い現場では、民間企業への転換によりこれまで顕在化しなかった問題点が表面化してきている。その原因として受託実績を有する企業からは、「官民の指定管理者制度に対する意識のずれ」であるという声が多く聞かれる。
そこで本稿では、指定管理者制度における課題・問題点のうち「官民意識のずれ」について、民間企業側の視点から考えてみたい。以下では、民間企業側が考える「ずれ」として主な3つについて紹介するとともに、それに係る行政としての留意事項等について整理する。

【ずれ1】対象事業における指定管理者制度の導入目的が曖昧

そもそも指定管理者制度を何のために導入するのか、「サービス内容向上なのか」「コスト削減なのか」等その目的が明確でない事業がみられる。目的が明確になることは、指定管理者がそれに基づいた事業計画の立案及び事業遂行が可能となり、事業に取り組み易くなる。これは、公募時の参加者増にもつながる。
なお「サービス水準向上」と「コスト削減」という目的は相反する関係にあり、制度導入当初は両立が可能であるものの、その関係が均衡するとサービス水準を維持しながらコスト低減することは容易ではない。つまり業務内容を変えることなく「コスト削減」するには限界があり、それを目的とし続けることは現実的ではない(担い手がなくなる)こともあわせて認識する必要がある。導入目的を定める際には、これら特性を踏まえるべきである。

【ずれ2】指定管理事業そのものを丸投げ

行政の指定管理事業に対する当事者意識が低く、モニタリングすることなく指定管理者に全て委ねているケースや、書面に記されていない業務範囲を超えた業務まで指定管理者に依頼しているケースがある。
これは、これまで外郭団体等に業務を一任し、あうんの呼吸で行われてきたことをそのまま指定管理事業として継続していることが主な要因であると考えられる。それゆえ、行政が事業内容を十分に理解できていない場合も多く、民間企業が指定管理者になることによって初めて明らかになる事項も少なくない。指定管理事業は、指定管理者に丸投げではなく、行政と指定管理者の両者がパートナーシップを保ちながらより良い事業を創り上げていくという姿勢で取り組むべきである。

【ずれ3】民間企業が儲けることに対する誤解

民間企業は、利益を得なければ企業として存続できないことは自明である。しかし、指定管理者が当該事業で利益を得ることに対して異議を唱えたり、利益を計上しないよう予算の是正を促したり、収益の一部を行政へ還元させるなど、民間企業が儲けることに対して誤解のある行政は少なくないという。
このような基本的部分で誤解があるままでは、民間企業を指定管理者として指定することは適当ではなく、まずは公の施設の管理者として民間企業が担うことのそもそもの意義を理解すべきである。

これら官民の認識のズレに起因して指定管理者のコスト負担が増加したり、意思疎通が十分に出来ず、指定管理者としてのパフォーマンスやモチベーションが低下するとともに、撤退等により指定管理者が入れ替わりサービスの継続性が維持されず住民へのサービス水準低下等の事態が生じている。
こうした中、指定管理事業は法律に基づき全国一斉に導入されているため、公募はほぼ同じ時期に行われている。つまり、企業側は参加事業を選別することが可能であり、行政側が民間企業として受け入れられる環境整備と意識改革が行わなければ、参画企業がなく民間ノウハウの活用を期待しても実現しない事態も起こり得る。指定管理者制度は、今まさに岐路にあるといえ、今後も持続可能な仕組みとするためには、行政が指定管理者(又は民間企業)の意見に耳を傾け現状を理解し、官民の意識の「ずれ」を補うよう真剣に取り組むべきであると考える。

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