ポスト市町村合併としての地域内分権・住民自治
平成の市町村合併が終わり、地方分権を推進するべく国と地方の新たな関係づくりを検討する段階に入った。しかし、地方分権の推進には、基礎自治体である市町村における自治機能の一層の強化が必要とされる。
鳩山政権が総辞職した6月4日に、政府は「新しい公共宣言」を発表した。「支え合いと活気がある社会」の形成に向けて、国民、企業、政府の全てが公共の担い手として、それぞれが役割を果たしていくことを示唆したものである。公共サービスは行政により提供されるものという従来の国民と政府の関係を大胆に見直そうという発想である。
こうした考え方は、「地域内分権」や「住民自治」と称し、地方都市を中心として既成活動となっている。住民に予算と権限を与え、地域の課題を住民自身が考え、自らの判断で解決に向けて取り組むことである。地域の事情に応じた活動を住民主導で行い、市町村が支援する立場にあることが、行政への依存の高かった地方において従来と大きく異なる点である。
市町村行政のあり方の抜本的な見直しが必要
「地域内分権」や「住民自治」は、過剰になった行政サービスを本来の姿に戻そうという視点がある。高度経済成長、バブル経済を経て、生活が豊かになり、ライフスタイルが多様化したことで、身近な行政である市町村に対する国民の要望が高度化・専門化した。都市インフラをはじめ地域づくりが追いつかない実状から、千葉県松戸市が「すぐやる課」を設置したように、多くの市町村では住民の声に敏感に対応してきた。しかし、財政状況の厳しい今日では、ますます高度化・専門化する住民ニーズへの対応に限界が見えてきた。
行政サービスが充実したことにより低下した地域の自治機能を回復させるねらいもある。地域コミュニティを支える自治会組織は、政策を住民に伝達し、一斉活動を促す行政の下部組織的な役割となり、自治機能を喪失させてきた。行政が交付する補助金も使途を細かく制限したことにより自主裁量による活動が行われにくくなった。
いずれも、従来の延長線上での市町村行政に限界が来たということである。
平成の市町村合併が検討のきっかけに
もう一つ、平成の市町村合併が、「地域内分権」や「住民自治」を本格的に検討する大きな契機となっている。
合併市町村の場合、都市部と農山村が合併、行政面積が拡大し、周辺部の住民の声が届きにくくなった。支所機能を充実しては合併効果が発揮されないため、住民の力を借用しようとしたものである。全地域一律のサービスが適当でないケースも生じたため、地域の裁量を拡大しようという考え方もある。同じ交通安全対策を実施するにしても、都市部では歩行者通行、山間部では除雪対策といったように、地域ニーズが異なるためだ。
非合併市町村の場合、国からの財政的支援が少なくなるため、厳しい財政状況の中、持続的な行政運営には、住民の協力を得ることが不可避とされたことによる。合併を回避するには、住民でできることは可能な限り自主的に行うという合意形成は容易に得られた。
成功事例の集約と国民的合意が不可欠
住民自治は、地域コミュニティの既存の活動組織である自治会が担い手となっているところが多い。しかし、行政からの依頼事務が多く手一杯である、下請け団体として長年活動してきたため企画・検討ノウハウがない、マンション住民をはじめ自治会未加入者が増加している、世帯加入であるため若者の意向が反映されにくいなど、課題も多い。
一方、新たな組織構築やNPOに期待する市町村もあるが、自治会との役割分担をどうするか、地域との関わりを持たないNPOが地域密着の活動をしたがらないなどの課題も見られる。
「地域内分権」や「住民自治」を進める市町村はまだ数十程度と少なく、先行市町村の事例を参考にしながら、それぞれが手探り状態で行っている状況にあるようだ。一方、市町村によって望ましい姿が異なるはずで、活動組織や規模、活動内容などマニュアル化が必要なものではないと思われる。ただし、必要性を感じている市町村は極めて多いというデータもあり、成功事例の集約や推進市町村の情報交流の場づくりなどが必要である。
また、「地域内分権」や「住民自治」実現の最大の課題として、新しい公共に対する国民的理解があげられる。特に、地域コミュニティ活動との関わりの少ない若い世代には、自身が公共の役割を担うことについて理解を促すのは難しいであろう。新しい公共に関する具体的なイメージ形成と国民的論議の機会づくりを望みたい。
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