有期契約労働者の活用を巡る最近の議論について

2011/09/20 横山 重宏
雇用

我が国で企業などに雇われて働く労働者(役員を除く雇用者)4,895万人のうち34.4%に相当する1,685万人が、パート・アルバイト(1,148万人)、派遣労働者(92万人)、契約社員・嘱託(313万人)といった非正規労働者である。正規労働者(正社員・正職員)の人数は3,210万人であり、企業の中では役員を除けば、ざっと3人のうち1人が非正規労働者となる。(数値は、総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」の岩手県、宮城県、福島県を除く2010年の値である。以下同様。)
なお、先の世界同時不況に端を発して社会問題化した「派遣切り」から、非正規労働者というと派遣社員を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実際には、前述のデータが示す通り、非正規労働者の大半はパート・アルバイトである。
非正規労働者については、雇用が不安定であることや、能力開発の機会が少ないこと、さらには、一部には正社員と同じ仕事をしながらも処遇に格差が生じているなど、様々な問題が以前から指摘されている。一方で、多様な働き方を希望する労働者のニーズに合った働き方が実現できる場になっている側面も見逃せない。
非正規労働の問題についてはこれまでも数多く議論されてきたが、現在、厚生労働省の審議会・研究会で議論されているものをざっと挙げるだけでも、以下のものが見つかる。いずれも大きな問題を扱っており、解決の難しさが窺われるだろう。

本稿ではこの中で、上から2番目の労働政策審議会労働条件分科会における「有期労働契約に関する議論の中間的な整理」を取り上げる。言うまでもないが、パート・アルバイトなど非正規労働者の大半は、期間の定めのある雇用契約(有期契約)に基づいて働いている。ちなみに、正規社員(正社員)のほとんどは「期間の定めのない雇用」契約である。
問題点に移る前に、有期労働契約の労働者の働き方の現状をみておこう。以下は有期契約労働者について、その契約期間、契約更新回数、勤続年数などの現状をまとめたものである。

有期労働契約の労働者の働き方の実態

事業所調査
(回答事業所の割合)
個人調査
(回答した個人の割合)
契約期間 (1回あたりの契約期間)
6ヶ月超~1年以内:54.2%
3ヶ月超~6ヶ月以内:19.6%
(現在の契約期間)
6ヶ月超~1年以内:40.0%
3ヶ月超~6ヶ月以内:22.5%
平均契約期間:7.8月
契約更新回数 (実際の契約更新回数)
3~5回:39.5%
6~10回:21.9%
(現在の契約更新回数)
初回契約の労働者:28.1%
契約更新している労働者:71.9%
平均更新回数:5.7回
勤続年数 (実際の勤続年数)
1年超~3年以内:28.7%
3年超~5年以内:28.1%
(現在の勤続年数)
1年超~3年以内:30.1%
6ヶ月以内:21.2%
平均勤続年数3.2年
希望する継続
雇用期間
出来る限り長く:40.4%
1年超~3年以内:17.9
過去3年間の
雇止めの有無
行ったことがない:69.4%
行ったことがある:30.0%

(出所)平成21年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)(個人調査)報告書【概要版】平成21年9月

この資料からは、比較的短い契約期間を反復更新して活用するケースが大半であり、さらに非常に長い期間継続して雇用されているケースも一定以上あることがわかる。実際、事業所調査からは、希望する継続雇用期間については、「出来る限り長く」が4割を超える。
こうした現状をふまえて、有期労働契約に関する検討の背景、問題の所在について、労働者側、使用者側双方の意見をみよう。

有期労働契約の機能や実態についての検討の背景、問題の所在にかかる労使の意見(抜粋)

労働者側意見 使用者側意見
  • 有期とする必要性がないにもかかわらず、有期労働契約を反復更新する実態であるのは、企業が契約を打ち切るフリーハンドを確保するとともに、さらに処遇格差を正当化するために、有期労働契約を用いているからではないか。雇用の原則は、期間の定めのない直接雇用が基本であって、その観点から、有期労働契約の利用は合理的な理由がある場合に限るべきである。合理的な理由がない場合は原則として期間の定めのない労働契約となるものとし、雇用の安定、雇用の質の向上を図るべき。
  • (前略)企業の存続、国内雇用の維持・創出の点でも有期労働契約による雇用の確保は重要であり、その多様な実態の中で不合理・不適正な運用がどのような部分に存在するのかを具体的に明らかにして議論をすべき。
  • 有期労働契約は、(中略)、会社の存続のために業務量の変動に対応するための雇用量の調整は必要であり、特段の支障のない限り更新を繰り返すことを予定しているので、有期労働契約を例外とするのではなく、有期労働契約をどのようにしてより良質な雇用の場としていくかを考えるべき。

(出所)労働政策審議会労働条件分科会「有期労働契約に関する議論の中間的な整理」(平成23年8月3日)。
(備考)表は、上記出所より筆者がポイントと考えられる意見を抜粋したものである。労使の意見を正確に理解するためには、出所を是非ご覧頂きたい。

表の文中からはダイレクトには伝わってこないかもしれないが、有期労働契約に対する基本的な考え方で労使は一致点を見いだしておらず、本中間整理全体を通じて、労使双方は激しく対立している。
その中では特に、業務量の変動への対応としての有期労働契約についての考え方に注意したい。労働者側は、有期契約の更新を繰り返しているケースが多いという実態について、本来ならば期間の定めのない雇用にできるはずのものを、業務量変動への対応は企業のフリーハンド確保のための手段になっていると問題視している。反対に使用者側は、有期契約の更新を繰り返しているケースが多いことは雇用の安定であり、業務量変動への調整機能としての有期契約は必要との考え方である。
この対立点は結局のところ、『中期的ないつ生じるかの時期が不確実な業務量への変動』に対する雇用量の調整機能を、企業はどう確保すべきか/できるのか、ということに帰着される。背景には、(期間の定めのない雇用である)正社員の雇用調整には非常に時間がかかることがある。多くの企業は、労働者側が指摘するようなフリーハンドの部分を確保したいと考えている可能性は高い。論点は、その是非の考え方である。
ここで、注意しなければならないのは、有期雇用契約を繰り返し更新した場合、雇止め法理(注1)により雇止めは大きな制約を受けることである。「フリーハンド」は実態上、フリーハンドではないことになる。また、先の派遣切りでも明らかになったように、急激な雇用調整はたとえ法的な違反がなくとも大きな社会的批判を受け、企業価値を損ねることにもつながりかねない。
企業は、時期があらかじめ確定できない大きな需要変化(減少)にどういった雇用調整手段をとれるのだろうか。現在、多くの企業がとっている手段は、現状の判例法理を見据えて、3年弱の通算勤続期間を上限に、契約更新を行わず、雇止めするケースである。労働者にはあらかじめ、契約更新・通算期間上限を超えて更新をしないことを告げており、労使双方には雇用継続への合理的期待は形成されず、法的に問題はない。ただし、この方法の場合、現在よりも雇用の安定性(長く雇用されるという意味で)は低くなり、また、長期的な人材育成の機会が少なくなったり、有期契約から期間の定めのない雇用である正社員への登用の道が狭くなるおそれがある。このことは企業側にとっても品質や生産性の向上を阻害する要因にもなりかねず、次善の策であることが窺われる。
では、どうすればよいか。筆者は需要変動対応特約付きの、無期雇用型社員の創設はどうかと考えている。これは、そもそも契約更新を繰り返し、活用する側からは重要な戦力となっている有期契約労働者を無期雇用に転換するが、中長期的な将来時点で需要変動(減少)が生じた際には、就業日数や、1日の就業時間を柔軟に減らすことがきるような条件付き無期雇用契約を認めることである。もちろん、最短でも1か月~3か月先の労働条件の変動に限定し(つまり、明日から来なくてよいと言うことは認められない)、また、変動による雇用調整が行われる期間は6ヶ月以内とするなど、予め明示することが条件である。
そして、有期労働契約者本人に対しては、例えば、現在の雇用形態とこの需要変動特約付き無期雇用型社員のどちらが自分にとって好ましいかの選択を任せることも考えられる。各労働者は、雇用の安定、均等・均衡処遇を考慮して自らの雇用形態を選べることになる。
もちろんこのアイデアの実現には、法律面、企業の雇用管理面、等多くの詳細な検討が必要となろう。現状の有期労働契約の問題は、いわば隘路に陥っていることは明らかであり、正社員を含めた雇用制度・慣行全体での議論が必要である。同時に、いくつか実験的な雇用形態を認めるなどして、雇用の安定と需要変動への対応の両立を図る試みに挑戦していくことが重要であろう。

(注1)有期労働契約であっても、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約である場合や、反復更新の実態、契約締結時の経緯等から雇用継続への合理的期待が認められる場合は、更新拒否(雇止め)について、解雇権濫用法理の類推適用がなされること。

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