わが国における医療観光の成長可能性2(外国人患者の受入に関するアンケート調査結果速報)

2012/08/02 関 恵子
医療
観光

外国人患者の受入に関するアンケート調査実施概要

わが国における医療観光の成長可能性1」にて述べたように、医療観光の市場規模や医療ツーリスト数の推計にあたっては、前提条件や仮定が大きく異なるために、各種推計結果に差が生じる場合も多い上、特に、国内では、外国人患者の受診実態も十分に把握できていない状況にある。
今後、国内各地における医療観光に係る活動推進に向け、観光の側面のみならず、その主たる受け入れ先となる医療の現場の両側面の実情を十分ふまえた市場規模の推計を行い、実効性の高い仕組みを検討することが重要である。
こうした認識のもと、当社では、2011年10月に、医療機関を対象とした「外国人患者の受入に関するアンケート調査」を実施した。調査概要は次の通りである。本稿では、速報としてポイントを紹介する。

調査結果の概要

調査名 外国人患者の受入に関するアンケート調査
調査期間 平成23(2011)年10月19日~10月28日
調査形式 郵送配布・郵送回収
調査対象 一般病床を有する病院 4,580件 ※被災県等を除く
(精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床のみの施設は除外した)
調査項目
  • 過去1年間の外国人患者の受入実績、受け入れた外国人患者の母国
  • 外国人患者受診時の対応方法・対応可能な言語
  • 日本語が話せない外国人の受診希望への対応、通訳者の確保手段
  • 今後3~5年を目安とした、外国人患者の受入の見通し
    (1ヶ月あたりの想定受入人数、関心のある受入形態)
  • 受入にあたっての課題
有効回答数 507
調査主体 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

ポイント1~過去1年間の外国人患者の受入実績

  • 過去1年間の間に、入院、外来、健診・検診のいずれかで、外国人患者の受入実績のある病院の割合は約76%(図1)。受入形態別・来院目的別にみると、過半が「日本在住外国人」であり、「観光目的で来日」「治療・検査目的」の外国人患者は、数%~10%程度にすぎない(図2)。
  • 受け入れた外国人患者数について、回答のあった一般病院全ての合計値を100とした場合の受入形態別・来院目的別構成比をみると、98.1%は「日本在住外国人」が占め、「観光目的による来日」、「治療・検査目的の来日」は各々1%に満たない(図3)。想定されうる医療観光の実績としては、「観光目的で来日」した患者のうち、「健診・検診」の受診者と、「治療・検査目的で来日」した患者と考えられるが、全体の2%弱である。

過去1年間の外国人患者の受入実績

ポイント2~今後3~5年を目安とした、外国人患者の受入の見通し

  • 外国から患者を積極的に受け入れる、いわゆる「医療観光」に関する意向として、6割強が「関心はない」と回答している。また、約4分の1は、「現在は積極的ではないが、今後については関心がある」としている。「すでに積極的であり、今後も継続する」と回答した8.1%を合わせると、3割以上の病院は、前向きな意向を示していると考えられる。
  • また、回答したような形態での外国人患者の受入をすすめた場合、1か月あたりの受入可能人数をたずねたところ、116病院から回答を得られ、計2180人にのぼり、関心ある受入形態別では、約5割が「健診・検診」、4割が「外来治療」であった。

医療機関からみた外国人患者の受入可能規模

アンケート調査結果をふまえ、受入可能な外国人患者数の推計を行った(図4)。具体的には、アンケート調査から、’今後3~5年を目処に、外国人患者数に1名以上の受入が可能’と回答した病院数の割合を、受入形態別(健診・検診、外来、入院)に算出し、全国の一般病床を有する病院の中から対象となる全5,180院に案分した(<1>)。次に、アンケート調査結果の’受入可能な外国人患者数(1月あたり)’を用い(<2>)、受入形態別にみた、年間の受入可能な外国人患者数を推計した(<3>)。
この結果、医療機関では、今後3~5年を目安とした、受入可能な患者数は、27万人程度となった。また、このうち約5割が、健診・検診であり、13万人程度となっている。

外国人患者の受入可能規模

*注)病床の種類のうち、精神病床、感染症病床、結核病床、療養病床のみの施設は除外。

一般病床を有する病院の1日平均外来患者数(2010年)は、約135.6万人(厚生労働省「医療施設(動態)調査・病院報告」)であることから、日本人または在日外国人の来院状況等からみても、人数で見れば、ごく一部の受入となることが想定される。
わが国は、医療水準が高く、国民皆保険制度のもと、医療へのアクセシビリティのよさなどが諸外国からも認められてきている。一方で、特に近年は、医師・看護師不足の顕在化や医療財政の緊縮化等、医療を取り巻く環境は大きく変化しており、将来にわたり安心して医療を受けられるための医療提供体制の充実・強化が急がれていることは事実である。推計結果において、一定の需要が確認された状況をふまえると、地域医療の拠点として医療サービスを存続させ、また、高度医療の安定供給のための設備の稼働率向上、多様な症例蓄積などのために、当該地域以外の患者の積極的な受け入れを行うことは、地域の医療機関にとっても、検討に値するといえるだろう。
ただし、同アンケート調査においては、そのための環境整備の重要性も指摘されている。具体的には、治療費(不払い)の問題の解消、院内の多言語表示や文化・習慣の違い等に対する対応も必要といえる。

(注)
本原稿は、当社内の自主研究として実施した、以下研究の成果に基づき執筆したものです。

調査内容:医療観光(外国人患者の受入に関するアンケート調査ほか)
調査期間:平成23年8月~12月
調査担当:政策研究事業本部
公共経営・地域政策部  妹尾 康志、関 恵子、赤木 升
経済・社会政策部     星芝 由美子

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