筆者はこのたび、日本財団 子どもの貧困対策チームと共同で調査を行い、その結果を『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』(文春新書)(http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166610921)として上梓した。
分析結果から明らかになったのは、子どもの貧困を放置すると、将来的な社会的損失は40兆円超に達するという事実である。本稿では、社会的損失推計のエッセンスを紹介するとともに、今後の方向性を示したい。
子どもの貧困を放置するとなぜ社会的な損失が生まれるのか?
子どもの貧困が放置されたとしても、貧困状態にない人にとってはあまり影響がないと思われるかもしれない。しかし、貧困状態にある子どもの教育機会が失われてしまえば、大人になってから生み出す所得が減り経済が縮小する。所得や経済規模が縮小すれば、社会としては税収や年金等の社会保険料収入が減少してしまう。加えて、そうした人たちが職を失ってしまえば、生活保護や失業給付、職業訓練といった形で支出が増えることにもなってしまう。
つまり、子どもの貧困を放置してしまうと、社会の支え手が減ると同時に、社会に支えられる人が増えてしまうため、めぐりめぐってそのコストを社会全体で負担しなければならない。その結果、他の人がより多くの税金を負担しなければならないか、さもなければ社会保障や教育、インフラといった公的サービスの切り下げを甘受しなければならない。
これが子どもの貧困を放置することによって生じる「社会的損失」である。
子どもの貧困の放置で社会的損失は40兆円
それでは子どもの貧困を放置した時の社会的損失はどの程度になるのか。0~15歳の子ども約1760万人のうち、生活保護世帯・児童養護施設・ひとり親家庭に属する子どもを貧困状態にあると定義して、子どもの貧困を放置した場合の社会的損失を推計した結果を図表に示している。
「所得」の列には貧困世帯の子ども約260万人が一生涯で得る所得金額を示している。また、「税・社会保障の財政収入」には同じく貧困世帯の子ども約260万人について、一生涯で政府に収める税・社会保険料負担額から、政府から受け取る社会保障給付額を差し引いた金額を示した。
「改善シナリオ」は、子どもの貧困対策によって子どもの教育機会が確保され、高校進学率や大学進学率などが改善する想定であり、「現状放置シナリオ」は、子ども期の貧困によって生まれる教育機会の格差が、現状のまま放置される想定である。
結果を見ると、「改善シナリオ」では、一生涯で得る所得は374.4兆円となり、納める財政収入は99.9兆円になる。一方、「現状放置シナリオ」では、所得は331.5兆円、財政収入は83.9兆円まで減少してしまう。改善シナリオと現状放置シナリオの差分が「子どもの貧困の社会的損失」であり、子どもの貧困を放置すると所得が42.9兆円失われ、財政収入が15.9兆円失われることになるのである。
図表 子どもの貧困の社会的損失
(出所)日本財団子どもの貧困対策チーム(2016)『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』(文春新書)より作成
子どもの貧困対策を「投資の視点」で再構築せよ
子どもの貧困の社会的損失推計結果からは、子どもの貧困対策を「投資の視点」で再構築することの必要性が示唆される。子どもの貧困対策は長期的にみて社会的な便益の大きな政策であり、福祉としてだけではなく投資としても重要であると言える。
加えて、子どもの貧困を放置すれば、その社会的損失をゆくゆくは社会全体で負担していかねばならないこと、つまり税負担の増加や公共サービスの縮小となることが避けられない。子どもの貧困は他人事として放置してはならない「自分事(ジブンゴト)」なのである。
『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃』では、子供の貧困の当事者や支援する方々へのインタビューや国内外での取り組み事例を踏まえて、どのような貧困対策が求められるのかを包括的に論じている。経済的な観点から子どもの貧困を捉え、対応策を考えることで、子どもの貧困問題を「自分事(ジブンゴト)」としてとらえ直していただく機会となれば幸いである。
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