地方創生に必要な「子どもの教育と産業振興」の関係見直し

2017/11/01 平川 彰吾
地方創生
教育
産業振興

地方創生の課題の1つとして、地域社会の担い手の確保・育成が挙げられる。昨今、地域を担う人材の「事業の創発力・運営力(付加価値を生み出す力)」の向上に繋がる取り組みが、「子どもの教育」に見出され初めている。

地方創生にとって重要な産業振興

法人・個人の経済活動が地域社会の維持につながることは勿論、「就業先の選択が居住エリアを概ね決定する」という人口移動の点でも産業振興は重要である。そして、地域の産業振興のためには、「しごとがひとを呼び、ひとがしごとを呼び込む」と謳われているように、「ひと」の存在もまた重要になる。

「しごとがひとを呼び、ひとがしごとを呼び込む」という考え方は、「企業誘致が雇用を生む。その前提として人材(作業従事者など)が一定数確保できるところに事業所の設置が可能」という解釈もできるだろう。しかし、技術革新が進み、生産性向上が求められる昨今、様々な業務で機械化・自動化が進む予測があり、事業所の誘致が雇用を生まない事態も想定しうる。

従来は労働集約型だった産業・職種の一部業務は機械が代替する可能性があり、人口減少による市場縮小も併せ、地域の既存事業所が縮小・撤退する可能性がある。一方、資本集約型の産業に関しても都市部へと集積する傾向があると分析されている1。そして、今後重要性を増す知識集約型の産業・職種についても、情報収集コスト、取引コストの低さから大都市への立地インセンティブがあり、そうした職業・職種へと少なくない数の大学生が就職を希望する。

このように、地域経済を支える事業・人材は、待ちの姿勢では地域から減っていく状況にある。そのため、地域においては「ひとがしごとを呼び、しごとがひとを呼び込む」と考え、「地域の人材が事業の創発・運営(既存事業の拡大、新規創業、企画機能等を持つ事業所の受入など)に貢献し、創発された事業が求職者を惹きつける2」と捉えていくことが一層重要になる。


1「大久保 敏弘/ Rikard FORSLID (2010) 『Spatial Relocation with Heterogeneous Firmsand Heterogeneous Sectors』 (RIETI Discussion Paper Series 10-E-056) 」 では理論分析・実証分析を行い、「資本集約的な産業では生産性の高い企業のみならず低い企業も都市部に集積」することを示唆している。
2 日本中(や世界)の求人情報を比較検討できる昨今、魅力的な雇用でなければ地域からの人材流出につながり、人材環流の実現も難しい。

子どもの教育と産業振興

事業を創発・運営できる人材が、「各地域」で育つ可能性を秘める動きとして、「小・中・高等学校における教育の変化」、「ICT・AI時代を生きる力(21世紀型のスキル)に関する議論」が挙げられる。(参考1)

近年の学校教育においては、知識(学力)の獲得だけでなく、学び方・思考方法も重視されている。アクティブラーニングの普及等により、知識や技能の習得に加え、「学びに向かう力・人間性・思考力・判断力・表現力」を育成する方向性が示されている3。こうした力は、技術革新の進んだ社会、国際化の進む社会を子どもが生きていくための、21世紀型のスキル(創造性、批判的思考、論理的思考、情報の収集・活用力、協働力など)とも通じる。また、大学受験への面接導入により、学力以外の資質や、独自の経験・考えも重視されるようになりつつある。

こうした取り組みの結果、「社会に出てからも伸び続ける人材の育成」、「付加価値を生み出す基本姿勢を身に着けた人材の育成」、「独自の経験を持つ、多様な人材の育成」に繋がる可能性がある。こうした力・資質を身につける学びの機会は、従来は特定の子どもに限定されていたかもしれないが、今後は全ての子どもが対象となりうる。将来地域を出て行くか否かに拘わらず、人材力の底上げにつながる可能性があり、就業後のOJT、Off-JTを通じて、地域の産業振興(≒地方創生)に貢献する可能性がある。


3「新しい学習指導要領の考え方(平成29年度 小・中学校新教育課程説明会(中央説明会)における文部科学省説明資料)」より

課題(①学校対応の限界には地域で対応、②管轄は学校教育か産業振興か)

子どもの「21世紀を生きる力」を伸ばす取り組みは、必ずしも学校教育で完結させる必要はない。学校だけでの取り組みには限界がある場合もあり、必要に応じて地域のリソースも活用することが求められる。学校教育の枠組みにとらわれない、産業振興にも近しい取り組みとしては「知財創造教育(内閣府等)」、「起業教育((株)日本政策金融公庫)」などが挙げられる(参考2)。いずれの活動もその本質は「創造行為・課題解決に必要な力」や「実行に移す力」などを育成することにある。

こうした取り組みは、教育と産業の両領域にまたがる取り組みであるが故に、行政が関与する際には位置づけが悩ましいという課題が内在する。

教育部門としては、学校教育といえば「発達の支援・人格形成」、「学力の習得」、「社会で生きる力」といったワードが想起される一方、産業振興に通じる教育といえば「職業教育(専門技能の習得・即戦力の育成)」のイメージが強く、産業部門の取り組み領域と想起される可能性がある。4

一方、産業部門としては、産業振興といえば事業者支援(設備投資や研究への補助、マッチング、伴走支援、情報提供等)が優先され、子どもへのアプローチは教育部門の取り組み領域と想起される可能性がある。

それ故、地域ぐるみで「21世紀を生きる力」を伸ばす取り組みについては、主たる事業領域ではないとして両部門に認知されない点が懸念事項として考えられる。行政に限らず、通常の教育課程で育もうとする力は、事業の創発・運営に貢献する力と共通していると、地域で気付くことが重要な1歩になるだろう。


4 新興国においては「識字率の向上が2・3次産業への就業を可能にする」といった、学校教育と産業振興の関係性が分かりやすい。

※参考1:ICT・AI時代を生きる力

●ICTやAIといった技術革新が進み、定型業務や、代替不可能と思われていたサービス業務も機械化や 自動化が進む可能性があり、経済や雇用の環境が変容する可能性がある。

●人間には新しい価値を創造していくことが求められる時代に。創造行為には、知識(探究心や学びの 習慣)、思考(批判的思考・論理的思考・独自の着眼点)、協働(対話力や共感力)などが必要とさ れる。

●こうした力を、これからの時代を生きる力としていくつかの国・地域では「21世紀型スキル」とし て整理を行っている。

※参考2:学校教育の枠組みを越えた、21世紀型スキルを育む活動

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