軽減税率の導入に関する問題点

2015/03/16 中田 一良
調査レポート

○日本の一般政府ベースの財政収支は、社会保障関連支出の増加を背景に赤字が続いている。財政健全化に向けて、今後、社会保障給付を中心に歳出を抑制するとともに、社会保障のための安定的な歳入を確保する必要がある。そうした中で、日本の消費税率は国際的にみて低く、長期的には、歳入において消費税収が果たす役割がいっそう高まる可能性がある。

○政府は、消費税率を2017年4月に10%に引き上げる方針であり、10%時には低所得者を中心に税負担を軽減するため、飲食料品を対象に軽減税率の導入を検討している。軽減税率は、日本よりも付加価値税率(標準税率)が高い欧州では多くの国で、さまざまな理由から食料品などに対して導入されている。軽減税率による負担軽減の程度を所得階級別にみると、負担軽減額は、所得が高いほど大きいといった傾向がみられ、軽減税率の導入により所得の高い世帯ほど恩恵が大きい形となっている。

○日本について、飲食料品を対象に軽減税率が導入された場合の負担軽減額について試算を行うと、標準税率と軽減税率との差が小さいことから、欧州のケースほどではないものの、所得が高いほど負担軽減額が大きくなるという結果となっている。軽減税率の導入の主な目的を、低所得者に対する負担軽減と理解するならば、目的を効率的に実施する政策とは言えない。

○軽減税率の導入にあたっては、軽減税率の対象の決定の難しさや、企業の事務負担の増加といった問題が指摘されており、税制が複雑化することなどに加えて、その財源をどのように確保するかという課題もある。こうした中、2016年1月には社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)が稼働する予定であり、この制度を利用すると低所得者に対象を限定して負担軽減策を実施することが可能となると考えられる。マイナンバー制度の活用を含め、消費税率引き上げに伴う、低所得者の負担軽減に向けた支援の在り方について改めて検討する必要があるのではないだろうか。

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