日本の予算制度における財政健全化に向けた課題

2017/03/21 中田 一良
調査レポート
国内マクロ経済
財政
金融

○2015年度の国と地方の基礎的財政収支はGDP比で-2.9%となり、4年連続で改善した。消費税率が2014年4月に引き上げられた影響が事業者の納税時期の関係で2015年度にも現れたことから、消費税収が3.3兆円増加して基礎的財政収支のGDP比の改善に寄与した。

○2016年度の国の一般会計の税収は、第3次補正予算において下方修正が行われ、2016年度の基礎的財政収支は悪化する可能性がある。今後については、内閣府の試算によると、政府が目指す経済成長が実現できた場合でも、2020年度の国と地方の基礎的財政収支は赤字であり、財政健全化目標の達成は困難であることが伺える。

○リーマンショック以降、財政収支が悪化したOECD加盟国の多くでは、財政規律が強化され、財政ルールを採用する国が増えた。財政ルールに関しては、財政危機に陥った場合などには適用除外を認めるなど柔軟性を有する一方で、財政ルールを守ることができなかった場合には、財政収支に関して何らかの是正措置をとることを義務付けるなど、財政ルールが効果を発揮するような仕組みがとられているケースが多い。

○日本の政府は、経済再生と財政健全化を目指して2015年度に「経済・財政再生計画」を策定した。他のOECD加盟国が採用したような財政ルールとは性格が異なるものではあるが、財政規律の順守を念頭においた枠組みもみられる。しかしながら、そうした枠組みを順守させるような仕組みがないこともあって、財政健全化に関してはこれまでのところは効果を発揮しているとは言い難い。

○日本では、当初予算は財政健全化を意識している場合でも、毎年のように補正予算を編成する結果、歳出額が拡大する傾向があり、その程度は他の先進国と比較しても大きい。歳出には社会保障の自然増以外にも常に拡大圧力がかかっており、こうした状況が続く以上、財政健全化は困難と考えられる。

○政府は、2020年度の基礎的財政収支の黒字化に向けて、2018年度に改革の進捗状況を点検し、デフレ脱却・経済再生を堅持する中で、必要に応じて歳出・歳入において所要の措置を講じるとしており、今後、財政健全化に向けて何らかの措置を取ることを検討せざるを得なくなる可能性が高い。その際に、効果的な措置を打ち出すことができなければ、政府の財政健全化に向けた姿勢が問われることになるだろう。

○こうした中、財政健全化に向けて、安易な財政出動(歳出拡大を伴う補正予算の編成)からの脱却が必要である。また、後年度の歳出増加圧力となりかねない、補正予算を通じた国債費の基礎的財政収支対象経費への実質的な流用を禁止すべきである。景気対策によって補正予算で赤字が拡大する場合には、後年度に是正措置を取ることを必要とする枠組みを採用することが有効であると考えられる。

○長期的には、人口減少、高齢化の進展により、財政運営の厳しさが増す中、財政規律の維持のためには財政ルールの必要性がいっそう高まると考えられるが、日本は、財政法第4条で赤字国債の発行を禁止しており、ルールはすでに存在している。しかしながら、特例法を制定することにより、「抜け道」が作られているのが現状である。政府が財政健全化を真に目指すのであれば、将来的には、特例法を制定することなく、財政法第4条を順守するとともに、「抜け道」ができないように順守のための強制力をもつ仕組みを導入することが必要である。

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