コロナ危機と米国経済~新しい生活様式への対応が景気回復のかぎに~

2020/06/04 細尾 忠生
調査レポート
海外マクロ経済

○新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した。米国では1月に初の感染者が確認され、その後、4カ月あまりの間に感染者数は約172万人まで増加、死亡者数も約10万人にのぼり、いずれも世界最多となっている。感染の中心はニューヨーク州とその周辺地域である。背景には入国制限が遅れ欧州由来のウイルス感染が広がったこと、外出制限実施が遅れたことがあった。

○もっとも、このところ新規感染者数はピークアウトがみられ、経済活動が段階的に再開され始めた。ただし、ニューヨーク州とその周辺地域を除く新規感染者数はいまだ増加しており、州によっては新規感染者数の増加が止まらず再び外出制限措置を実施する可能性もある。特にカリフォルニア州の増加ペースは加速がみられ懸念される。

○経済の先行きのシナリオは、新規感染者数の動向とともに、新しい生活様式への対応力が決め手になる。すなわち、ソーシャルディスタンシングを維持することにより、小売業やサービス業の売上高がコロナ危機前の水準に段階的に増加していくことが、経済回復への決め手となろう。当社では新しい生活様式への対応が段階的に進むことにより、経済活動の水準がゆっくりとではあっても着実に上昇するケースをメインシナリオに想定する。一方、新しい生活様式への対応が進まず経済活動の回復が遅れる場合や、感染者が再び拡大するような場合はマイナス成長が続く可能性もある。

○深刻な雇用危機について、米国の雇用は弾力性が高く、職への復帰が順調に進むとみる楽観論もある。もっとも、大きな経済危機が生じると雇用が急速に減少する反面、景気回復後に雇用の回復が遅れる非対称性がみられ、景気底入れ後も、雇用増加による米経済が本格回復には時間を要するであろう。

○未曽有の危機に直面し、政府・議会は過去最大規模の景気対策を成立させた。感染症拡大による経済悪化という政策的前例に乏しい中、規模、内容とも一定の評価ができる。その反面、財政赤字は第二次大戦時以来の水準まで悪化が見込まれ注意が必要である。一方、FRBは企業向け融資や社債購入などの新たな領域に踏み込むことにより、経済金融の安定を担保している。

○もっとも、米経済の本格回復まで時間が要するとみられ、政府やFRBは追加の政策対応を迫られる公算大きい。財政赤字の拡大が懸念されるとともに、FRBの金融政策運営は今後も難しいかじ取りが続くことになろう。

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