フィリピン経済の現状と今後の展望~ 海外出稼ぎ労働者からの送金に依存する経済構造からの脱却が課題 ~

2024/07/03 堀江 正人
アジア景気概況
海外マクロ経済
  • フィリピン経済は、1980~1990年代に低迷したが、その後、2010年代からは、ASEAN主要国の中でもトップクラスの高い成長率を示している。近年のフィリピンの景気拡大の牽引役は、個人消費を中心とする内需であり、これは、輸出主導型経済のタイやマレーシアとは異なる成長パターンである。
  • フィリピン経済の2010年代以降の盛り上がりを支えた要因として、2010年に就任したアキノ大統領以降、堅実な政治運営が続いており、政治の安定度が増したことを見逃せない。国民の大統領支持率は、アロヨ大統領(2001~2010年在任)の頃に比べ、2010年以降のアキノ、ドゥテルテ、マルコスの各大統領のもとで、大幅に高くなっている。
  • フィリピン経済を支える大黒柱は、海外出稼ぎ労働者からの本国送金である。経済成長の牽引役である個人消費拡大を支えているのは、出稼ぎ労働者からの送金であり、また、貿易赤字をオフセットして経常収支赤字拡大を食い止めているのも、出稼ぎ労働者からの本国送金である。つまり、フィリピン経済は「出稼ぎ労働者からの送金に依存する経済」と言っても過言ではない状態である。
  • フィリピンは、タイやマレーシアほどの大規模な輸出産業の集積がないために雇用環境が悪く、海外出稼ぎ労働者が非常に多い。この状況を放置すれば、優れた人材が海外流出し国内産業が空洞化する。これを防ぐには、FDI(海外直接投資)流入を促進して国内雇用を増やす必要がある。近年、フィリピンは、サムスン電子等による大型投資で携帯電話機輸出拠点として台頭してきたベトナムに輸出額で抜かれてしまった。
  • フィリピンへのFDI流入が少ない主要な原因として、インフラの脆弱さが挙げられており、電力価格の高さや交通渋滞の激しさなどが外国投資家に問題視されてきた。ただ、ドゥテルテ大統領時代に、大規模なインフラ整備や投資関連法改正などが実施され、投資環境は改善に向かう兆しが見られる。
  • フィリピンの大きな強みは、少子高齢化の兆しが見えるタイなどに比べると圧倒的に若年層人口が多いことである。この強みを活かすためにも、今後の政権が堅実な政治運営で投資家の信認を維持しつつFDI誘致を促進し雇用拡大を図る必要があろう。ただ、フィリピンは、大統領任期が6年で再選禁止のため、今後、堅実な政権とFDI誘致促進政策が中長期的に維持されるかどうかについては、不確実な面もある。

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