今月のグラフ(2022年11月) 2021年秋から急騰したトルコ株

2022/11/01 堀江 正人
今月のグラフ
海外マクロ経済

新興国の株式市場で、2021年秋以降、トルコ株の急騰に注目が集まった。トルコの株価(イスタンブール100種株価指数)は、2019年~2021年夏頃にかけてインド(SENSEX指数)やブラジル(ボベスパ指数)と概ね似たような動きを示していたが、2021年10月以降、急騰し、その後の1年間で2倍以上に値上がりし、インドやブラジルをはるかに上回る上昇率となった。トルコ株はなぜ急騰したのか?それは経済の健全性によるものではなく、歪んだ金融政策が株式市場への資金流入を促したからであった。

トルコの株価急騰の背景には、通常では考えられないような金融緩和政策があった。2021年3月に、インフレ抑制のため利上げを主張していたトルコ中銀のアーバル総裁が解任され、エルドアン政権の経済運営への市場の不信感が高まり、為替、債券、株価がトリプル安となった。その後、2021年9月には、インフレが加速する中、中銀が、市場にとって想定外の利下げを実施した。景気拡大重視のエルドアン大統領の意向を汲んだ変則的な利下げへの不安感から、通貨リラが売り込まれたが、株価については、中銀の利下げを追い風に、2021年10月以降、急上昇したのであった。

中銀の利下げをきっかけとした通貨リラ急落は、インフレに拍車をかけ、2021年12月には、インフレ率が前年同月比36%となった。同月中旬に、中銀は、金利をさらに引き下げるとともに、利下げの打ち止めを宣言し、これによって、株価は一旦下落した。中銀は、2021年9月以降実施した利下げの影響を2022年1~3月にかけて検証するとしていたが、金融緩和路線は修正されなかった。トルコのインフレ率は、2022年2月に54%、3月には61%にも達したが、中銀は利上げに動かなかった。インフレ率はその後も上昇し、8月には80.2%にも達したが、中銀は利上げに踏み切るどころか、8月と9月に予想外の利下げを実施した。こうした状況が、インフレヘッジのための株式投資を加速させた。一方、欧米のインフレ抑制のための利上げは今後も継続し、世界景気が悪化するとの見通しも広がり、こうした状況を受けて、トルコの株式市場でも今後への警戒感から足元で株価は軟調に推移している。

トルコの変則的な金融緩和政策は通貨急落を加速させた。トルコリラの対米ドル為替相場は史上最安値を更新し続け、足元では2019年初頭に比べて70%も下落、インドやブラジルの通貨下落率を大きく上回っている。金融緩和による通貨安は、輸入物価上昇圧力を高め上述のように高インフレ率をもたらしているが、それでもエルドアン政権が金融緩和に固執するのはなぜか?その最大の理由は、度を越した経済成長指向の強さである。エルドアン大統領は、トルコ共和国建国100周年に当たる2023年までに、GDPにおいてトルコを世界トップ10入りさせることを目指していた。IMFの推計では、2021年時点の名目GDPでトルコは世界20位であり、2023年の世界トップ10入りは、ほぼ不可能である。しかし、エルドアン大統領は、トルコの「大国化」への執着心が強く、金融緩和による経済高成長でGDPを拡大させようという意欲は変わっていない。今年4~6月期の経済成長率は金融緩和政策の支えもあって7.6%という高い伸びであった。しかし、今後、インフレがさらに加速し通貨リラの下落が進めば、中銀は利上げに動かざるを得なくなり、景気と株価が下押しされる可能性がある。

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