コロナ禍をきっかけに、米国の消費行動はどのように変化したのだろうか。最初に、コロナ前の米国の個人消費について、耐久財、非耐久財の合計である「財」と、その他の「サービス」に分類すると、消費全体に占める「サービス」消費の比率は上昇傾向で推移し、「財」消費の比率は低下傾向で推移していた(図1)。また、2000年~2020年までの「サービス」消費の内訳について、サービス消費全体の増加ペースを上回って増加したのは、「医療費」、「外食・宿泊費」、「公益・宗教活動費」、「海外旅行費」であった。いずれも、所得水準の上昇にともない支出が増加しやすい所得弾性値の高いサービスであり、この時期に「サービス」消費比率が上昇傾向にあったのは、経済の成熟化・サービス化にともなう動きであった。
しかし、コロナ禍をきっかけに、「サービス」消費の比率が大幅に低下した。背景には、コロナ禍で、ワクチン接種が普及し経済活動が段階的に再開されるまで、外食、旅行などの「サービス」消費が控えられ、「財」を中心とした巣ごもり消費が盛り上がった影響があった。また、外食、宿泊、空運など対面サービス業種での深刻な人手不足や、それにともなう航空機の減便、自動車生産の低迷によるレンタカーの不足もあり、「サービス」の需要に供給が追い付いていないこと、さらに、インフレ高進が特に「財」の名目消費を押し上げたことが、「サービス」消費比率がコロナ前のトレンドを下回っている要因とみられる。
コロナ禍での「財」消費比率の上昇、「サービス」消費比率の低下は、経済全体に大きな影響を与えた。第一に、広く指摘されるとおり世界的な物流に負荷がかかりサプライチェーンが混乱し財インフレをもたらした。第二に、「財」消費の急増で小売業が大幅な在庫投資を行ったが、「サービス」消費の回復にともない「財」消費が頭打ちになったため、小売企業は在庫調整圧力に直面、GDP統計で2022年前半に在庫投資が大幅マイナス寄与となるなど企業の事業活動に影響を与えた。第三に、「サービス」消費の下支えにより米経済は底堅いが、「財」消費の低迷により、各国の米国向け輸出が減少し景気に下押し圧力をもたらしている。先行き、コロナ前のトレンドを考慮すれば、「財」消費比率の上昇には需要の先食いも含まれているとみられ、「サービス」消費の回復と「財」消費の弱さがまだしばらく続く可能性が高いとみられる。
一方、日本の個人消費について、耐久財、半耐久財、非耐久財の合計である「財」とその他の「サービス」に分類すると、第一に、2000年代は米国同様に「サービス」比率の上昇傾向がみられたが、同比率は2009年1-3月期の64.2%をピークに2010年代はわずかに低下した(図2)。また、コロナ後の「財」比率は、インフレの影響や「サービス」消費回復の遅れもあり、1997年1~3月期以来26年ぶりの高水準となった。コロナ前の傾向を考慮すれば、今後は「財」消費が頭打ちになるものの、「サービス」消費は力強い回復が見込まれる。なお、日本の「サービス」比率が米国と比べ低いのは、日本では医療費の過半が政府消費として計上されるのに対し、米国では個人消費に計上されるため、米国の「サービス」消費に占める医療費の比率が24%と高いためである。もっとも、日米とも今後の消費動向を見極めるうえで、コロナの影響により、消費に占める「財」、「サービス」の比率が大きく変化したことに留意する必要があろう。
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