米国の潜在成長率が上昇している。潜在成長率の推計は幅を持ってみる必要があるが、米国では議会予算局の推計が目安とされる。議会予算局が2月に公表した最新経済見通しは、23年の潜在成長率が06年以来の2.2%に上昇し、その水準を27年まで維持すると見込んでいる。昨年の見通しでは、22~27年の潜在成長率を1.7~1.8%と見込んでいたため、大幅な上方修正となった。
潜在成長率の上昇をもたらす最大の要因は労働力人口の増加である。潜在成長率は定義上、(景気要因を除去した)労働力人口の増加率と、(同)労働生産性上昇率の合計であるが、議会予算局の分析では労働力人口増加の寄与が大きい。労働力人口の増加をもたらす要因は、移民労働者の増加である。バイデン政権が移民に寛容な姿勢を示したことをきっかけに、主に中南米からの移民が急増した。移民急増は治安悪化の懸念などから政治問題化し、大統領支持率低下の要因となったが、経済面では労働力を増加させる効果を持った。バイデン政権下での移民労働者の急増が、米国の労働力を拡大させ、ひいては、潜在成長率を押し上げる要因になっている(図表1)。
また、米国の労働力人口を押し上げるのは移民だけではない。女性、特に、統計上25~54歳と一括区分される年齢層の女性の労働力人口の増加も著しい。女性の労働参加率は、戦後一貫して上昇した後、社会進出の拡大一服などから、2000年初頭をピークに緩やかな低下傾向にあった。しかし、2015年頃から再び上昇している。背景には、女性活躍がめざましい米国でも、より一段と包摂的で多様な社会をめざす意識が高まったこと、格差拡大にともない生計のために就労する女性が増えたことなどの要因があったとみられる。いずれにせよ、女性の労働参加率は、コロナ禍で一度急低下したが、その後すぐに上昇し、コロナ前ピークを早期に上回ってなお上昇を続ける(図表2)。同年齢の男性の労働参加率が、コロナ前ピークにようやく戻ったばかりであること、若者、高齢者も含めた米国全体の労働参加率が、依然コロナ前ピークに戻っていないことと対照的である。
米国の労働力人口はコロナ前ピークと比べ273万人増加した。労働力人口増加を属性別にみると、男性・25~54歳が132万人、女性・25~54歳が100万人とこの2つの区分で大半を占める。男性は移民労働者の流入が、女性は、移民労働者の流入と労働参加率の上昇が増加要因となった。人手不足が世界的な課題となる中、米国は労働の供給力を拡大させることにより人手不足に対応し、人手不足のもとでは実現できなかった需要を取り込むことによって成長力を高めているといえる。移民と女性の活躍が成長力を押し上げる新たなステージに入りつつある。
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