銀行における女性活躍

2022/05/01 矢島 洋子

社員や管理職に占める女性割合の水準は、業種によって大きく異なる。銀行を含む金融業界は、いずれの比率も全産業平均に比べると高い。ただ、そのことが女性活躍の推進の妨げになる面がある。

女性の多い金融業界

政府は、「2020年までに指導的地位(リーダー層)に占める女性の割合を30%にする」と言う目標を、「2020年代の可能な限り早い時期に」先送りした。ただし、この30%という目標は、日本社会全体で到達を期待される目標であり、女性活躍推進法では、各産業の平均をメルクマールとしながら取り組みを進めることが期待されている。

女性活躍推進法以降の金融業界における女性活躍の推進状況を、2016年度と2020年度の雇用均等基本調査のデータで見ていく(図表)。2020年度の正社員に占める女性割合は、全産業平均の26.8%に対し、「金融業、保険業(以下、金融業)」は53.2%と倍以上の割合である。2016年度時点でも女性割合の高い業界ではあったが、さらに13.4ポイント上昇している。また、金融業は他の産業に比べると、総合職・一般職といった「雇用管理区分」を採用している企業割合の高い業界であったが、実際の総合職数でみると、全産業平均よりも女性の総合職の割合が高く、2016年度からさらに5.0ポイント上昇している。ただし、総合職に占める女性割合は27.4%に留まっており、全産業平均よりは高いとしても3割に届かない。新卒採用でも、女性を40%以上採用している企業の割合が71.4%と高く、採用意欲の高い企業が多いことが分かるが、総合職については、44.3%に留まっている。管理職割合も、全産業平均よりも高く、2016年度からの上昇率も高いが、2020年度で14.0%に留まっている。2020年代に30%を実現するのは困難とみられる。また、正社員割合と管理職割合の比率をみると、全産業よりも10ポイントも低く、女性社員の多さに比して管理職が少ないという業界の課題がみてとれる。

金融業界に求められる女性活躍推進

もともと女性社員の多い金融業界で、妊娠・出産による離職も近年減少し、管理職候補層もある程度の人数がいたため、女性活躍推進法の初期対応では、管理職への積極登用という取り組みで一定の成果を出せた。主要指標の数字で見ると、他業界と比べて女性活躍が実現しているように見える。しかし、社員が多い割には管理職相当の女性が少ないということは、キャリアが停滞している社員が多く存在することを意味する。女性に限らず、男性社員のキャリア意識にもネガティブに働いている可能性もある。また、総合職の割合が依然低い状況などから、長期的に見て、部長・役員層の女性比率を引き上げていくことができるかも疑問だ。

さらには、女性活躍という課題への対応が、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)組織への変革につながっているかという点も課題だ。仕事やライフステージに応じた柔軟な働き方が選択可能で、多様な働き方を選択した社員が公正に評価されるか。この多様な働き方には、「転勤」問題も含まれるが、転勤への対応可能性で、入社段階から雇用管理区分を設けるのはD&I経営において得策ではない。転勤や働き方は都度相談調整することを前提に、全社員に能力や適性に応じて様々な業務に就く可能性を持って働いてもらう。その上で、法人営業、融資への女性配置のみならず、テラーへの男性配置など、性別や年齢等のアンコンシャス・バイアスに捉われず、能力・適正に応じた配置・登用が可能となることが望ましい。定員設定では、育児や介護事由での短時間勤務社員を、1ではなく時間・給与に応じて0.7、0.8といったカウントとして組織目標を設定することで、時間当たりの生産性で評価できるようになる。こうしたことのすべてが、長期的に女性活躍およびD&Iを実現する上で必要な組織変革である。

AIやテレワークの広がりで、店舗も社員数も縮小が進む金融業界で、採用も管理職ポストも絞られていく趨勢では、女性活躍はもう十分とみる銀行もあるかもしれない。しかし、より限られた人材で、大きな環境変化に応じたイノベーションを起こす必要性の高い金融業界だからこそ、すべての社員の能力発揮を促すべく、一層積極的な組織変革を含む女性活躍を推進すべきなのである。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年5月号より転載)

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