「オンラインツアー」の現状および市場規模について2020年の市場規模は95.9億円、年間成長率約30%で、リアル旅行と別市場を確立

2022/05/09 前河 一華、片平 春樹
観光
独自調査

2020年、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う出入国制限や、国内での外出・移動の制限から、観光産業は多大なダメージを受けた。そこで、旅行会社等によって、リアル旅行の代替コンテンツとして、もしくは「コロナ後」を見据えた旅行の予習のためのコンテンツとして提供され始めたのが「オンラインツアー」である。

当社ではこの「オンラインツアー」は、単なる旅行の代替品ではなく、従来の旅行では成し得なかったさまざまな目的を達成できるツールとして、リアル旅行とは別の市場を確立しつつあるという仮説のもと、2021年8月に『「オンラインツアー」に関する調査』を行い、その現況やリアル旅行との違い、コロナ収束後の参加意向や市場規模等を把握した。

<「オンラインツアー」に関する調査> 概略

調査時期:2021年8月24日(火)~8月26日(木)

調査方法:アンケートモニターに対するネットアンケート

調査対象:全国15歳以上の男女で、「オンラインツアー」をよく知り参加経験がある方1,000名

調査項目:下記の通り。
1.「オンラインツアー」の現況
2.リアル旅行との差異
3.これまでに参加した「オンラインツアー」
4.コロナ収束後の参加意向
5.「オンラインツアー」の市場規模
6.参加後の意識変化や行動

結果概要

1.「オンラインツアー」の現況

現在実施されている「オンラインツアー」の特徴や、その参加者の特性を把握した。

(1)参加者の性・年代

・参加者の57.0%が男性で、男性や若年層の参加割合が高い。コロナ禍以降、性別では女性、年代では高齢の方ほど旅行をしなくなっていることから、「オンラインツアー」参加層とリアル旅行を敬遠している層は合致しない。

(2)対象地域

・これまで参加した「オンラインツアー」の対象地域は、海外を挙げた方が55.5%で最も多く、次いで国内(宿泊旅行圏)、国内(日帰り旅行圏)、国内(日常生活圏)の順に割合が高いことから、遠方の地域が人気である。

(3)ツアー形式

・「観光ガイドがいて、リアルタイムの現地の状況を映して説明するツアー(参加者から観光ガイドへ話しかけることができる)」形式への参加経験者が最も多く48.9%で、リアルタイムかつインタラクティブな形式が主流といえる。

(4)主催者

・総合旅行会社を選択した方が最も多く45.4%で、突出しているが、そのほかには公的団体から観光・旅行系以外の一般企業まで幅広く選択されており、主催者は多様である。

(5)参加者間の交流

・若年層ほど参加者間の交流があるツアーに参加しており、20代以下では65.8%にのぼる。60代以上は、参加者間の交流がないツアーへの参加率(67.1%)が、交流があるツアーへの参加率(36.3%)を大きく上回る。

(6)同時申込者・同時参加者

・カップル・夫婦や家族では、申し込むのは1人でも、当日は同じ画面に複数人で参加している場合がある。逆に、友人・同僚や団体旅行では、代表者が一括で申し込むが、参加時は別々の画面から参加している場合もある。

2.リアル旅行との差異

通常の旅行と対比した「オンラインツアー」の特性を把握した。

(1)参加理由

・初回の参加理由や目的は、「リアルの旅行が難しいため、その代替として」とのみ回答した人が13.9%にとどまる。39.3%は「単なる旅行の代替品」以外の理由や目的のみを挙げ、旅行の代替品と捉えていない層も多い。

(2)検討基準

・参加する「オンラインツアー」を検討する際の基準等は、「リアルの旅行と異なる場合もある」という人が69.6%であり、多くの人にはリアルの旅行とは別の要素が重視されている。

(3)参加するようになったジャンル

・オンラインツアーにて参加するようになったジャンルとして、「まち歩き、観光地・グルメ紹介」などが挙げられている。特に男性では、「オンラインツアー」を契機に新たなジャンルの開拓が行われている。

3.「オンラインツアー」の評価

良かった点や悪かった点を中心に、「オンラインツアー」に対する評価を確認した。

(1)良かった点

・良かった点、最も良かった点ともに、「移動時間や待機時間を伴わずに観光や体験が実施できる点」が最も多く挙げられているが、最も良かった点としてはこれに次いで「普段公開されていない/公開が限定的な場所の観光や体験が実施できる点」が挙げられ、リアル旅行では困難な観光や体験を実施できる点が評価されている。

(2)悪かった点

・悪かった点、最も悪かった点ともに映像や音声の乱れを挙げている人の割合が最も高く、特に主催者側の使用機器や通信環境、動作確認等で改善可能な部分がないか、十分に検討する必要があると考えられる。

(3)最も良かった地域

・最も良かった地域としては、男性や若年層ほど国内、女性や高齢層ほど海外としている。

4.コロナ収束後の参加意向

「オンラインツアー」の市場の継続性を確認するため、コロナ収束後の参加意向を確認した。

(1)参加意向の有無

・コロナ収束後もオンラインツアーに参加するとした人が72.3%で、9.6%は「リアルの旅行よりもオンラインツアーを選択したい」としており、コロナ収束後の「オンラインツアー」の需要が確認された。

(2)参加してみたいシーン

・コロナ収束後に参加してみたいシーンから、特に中年以降の女性や高齢男性はリアル旅行のさまざまな制約を乗り越えたり、より充実させたりするためのツールとして捉えており、若年男性は商品や地域の理解を深めるツールとしての使い方に着目しているとみられる。

5.「オンラインツアー」の市場規模

「オンラインツアー」の存在感を確認するため、コロナ禍以降(2020年1月以降)の市場規模を推計した。

(1)単価、回数

・2020年以降の1人1回あたりの有料の「オンラインツアー」支払総額の平均値は7,918円、中央値は5,000円。

・また、直近の半期(2021年1~6月)で、参加者1人あたりの参加回数は1.93回。

(2)市場規模

・半期ごとの1人あたり「オンラインツアー」参加単価を算出し、参加者出現率と平成27年国勢調査における人口をもとに算出した「オンラインツアー」参加人口を掛け合わせて市場規模を推計したところ、2020年の1年間で95.9億円となった。実際には参加していないが、参加意向を持つ方(潜在的利用者)まで含めた潜在市場規模は520億円である。

・半期ごとの推計では、市場規模が徐々に拡大していることが確認でき、全国の緊急事態宣言の状況が同等になっている2020年上半期と2021年上半期の比較から、市場規模の年間成長率は30%となる。

6.参加後の意識変化や行動

「オンラインツアー」の開催や参加による副次的効果を確認すべく、参加者の意識変化や行動を確認した。

(1)親しみ向上や訪問意欲の喚起の効果

・「オンラインツアー」参加後、85.8%の人が対象地域や施設等への親しみが向上したとしており、88.7%の人が対象地域や施設等に訪問したいと思うようになったとしている。

(2)参加後の行動の有無

・「オンラインツアー」参加後は、若年層を中心に地域の特産品購入や訪問などの地域に対する行動を起こしている人が多い。

(3)参加後の行動の経済規模

・2020年以降の1年半で、「オンラインツアー」参加者によるツアー参加後の消費・購買行動によって生じている経済効果は132.7億円に達する。

続きは全文紹介をご覧ください。

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