アフターコロナを見据えた《中堅・中小企業》の成長戦略アンケート調査結果について需要面よりも供給面の変化への対応が急務! 二分化する収益環境下、中堅・中小企業が成長に向けて取り組むべき戦略課題とは?

2022/04/20

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:池田 雅一)は、2022年1月に東京・名古屋・大阪の三大都市圏の中堅・中小企業を対象に、「アフターコロナを見据えた成長戦略アンケート調査」を実施しました。このほど調査結果を取りまとめましたのでお知らせいたします。

調査趣旨

新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令されてから約2年が経過しました。世界中のあらゆる環境が一変し、国内の社会経済、企業経営にもかつてない大きな変化が訪れています。そのような状況下、わが国の中堅・中小企業においても、存続・発展に向けた変化への対応が否応なく迫られています。

本調査は、新型コロナウイルスの流行が中堅・中小企業の経営に与えた影響の実態を把握し、アフターコロナの時代を見据えた成長戦略および経営課題を明らかにすることを目的としています。

結果概要

本調査の結果概要をエグゼクティブサマリーとしてまとめました。以降のエグゼクティブサマリーご覧ください。

本調査の報告書全文については、こちらのページよりダウンロードいただけます。

エグゼクティブサマリー

1. はじめに

新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言が発令されてから約2年が経過した。世界中のあらゆる環境が一変し、国内の社会経済、企業経営にもかつてない大きな変化が訪れている。一向に収束の見えない状況下、わが国の中堅・中小企業が存続し、さらなる発展を遂げるためには、この変化への対応が否応なく迫られている。

第6波とされる2022年3月時点の感染状況は、新規陽性者数で見れば、1日で10万人を超える状況と比べれば幾分下がってはきている(図表1左)。いまだ予断を許さない状況に変わりはないが、「ピークアウト」といった言葉も頻繁に聞かれるようになってきたのも事実である。欧米では経済活動を再開する動きも見られ、国内企業においても、アフターコロナを見据えた展開が活発化し始めているのではなかろうか。

当社では、わが国の経済を支える中堅・中小企業に対して、『アフターコロナを見据えた《中堅・中小企業》の成長戦略アンケート調査 』を実施し、約550社の回答結果をまとめたものが本報告書となる。調査実施時期は1月下旬で、この第6波のピークに向かう時期の調査となったことは偶然ではあるが、結果的にアフターコロナを見据えた企業経営の意識を問うに最適な時期だったと考える。

図表1右は、当社が昨年10月にリリースした「日本経済の中期見通し(2021~2030年度)」で示した「今後の労働生産性の予測」である。これによると、「2030年に向けて製造業を中心に生産性は徐々に向上」とある。ただし、その実現には「生産性向上で余った労働力を新たな付加価値を生み出す分野への円滑な移転が不可欠」と述べられている。

この予測通りとなった場合、コロナ禍を機に飛躍を遂げる企業が出てくることも期待され、その可能性は製造業が高いと言えるが、相対的に生産性の低さが指摘されている非製造業の生産性向上が鈍いと予測されている点は懸念でもある。

本報告書では、「建設・運輸業」、「製造業」、「卸売・小売業」、「サービス業」の4つの業種区分を定義し、この業種区分別に結果を比較分析することで、今後の成長戦略に向けた要点、その課題を探りたい。

図表1 新型コロナウイルス新規陽性者数の推移、今後の労働生産性の予測

新型コロナウイルス新規陽性者数の推移、今後の労働生産性の予測

(出所)左図:厚生労働省HP「国内の発生状況など・新規陽性者数の推移(日別)

右図:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「日本経済の中期見通し(2021~2030年度)」(2021年10月)

2. コロナ禍以降の経営状況

本調査の回答企業においては、今期の経常利益を「黒字」と回答した企業が9割を超えた。ただし、その半数は「前期と同等又は減益」と回答しており、一気に赤字転落といった状況は回避できているものの、やはり厳しい逆風下にあることがうかがえる。

2020年3月以降のコロナ禍の影響による経常利益の増減を聞いた設問(図表2)では、21.3%が「+10%超の増大」と回答する一方、「-10%超の減少」も20.7%あり、大きく二分化し、現状を声高に好況と発することは控えているものの、一定の企業においては実質的な追い風が吹いていることがうかがえる。他方、それと同数程度の企業が10%を超える経常利益へのマイナス影響を受けている。

業種別に見れば、建設・運輸業は、21.0%は「+10%超の増大」としたが、25.9%が「-10%超の減少」、19.8%が「-1~10%の減少」、合わせて45.7%が「減少」と回答した。新型コロナウイルスの流行によって、建設業は受注済み工事案件の延期や中止、運輸業は様々な業種業態が操業を落としたり、ストップしたりする中で輸送量が減退したことなどが影響しているものと推察される。

製造業は、「増大」が42.1%、「減少」が44.4%と拮抗しているが、わずかに減少した企業が多かった。「影響なし」が13.4%と少なく、コロナ禍の影響は、プラスかマイナスかに明確に分かれた傾向がうかがえる。

飲食料品をはじめとした巣ごもり需要に支えられた卸売・小売業は、25.1%が「+10%超の増大」、20.7%が「+1~10%の増大」と半数近い45.8%の企業がプラスの回答であった。

サービス業は、「+10%超の増大」と回答した企業が4つの業種区分の中で最も低い17.8%だった。顧客が個人でも法人でも、少なからず活動が制限されてしまっているこの環境は、多くのサービス業にとって大きな収益を得ることを困難にしていると考えられる。

図表2 20203月以降のコロナ禍の経常利益への影響

2020年3月以降のコロナ禍の経常利益への影響

3. 経営環境の何が変わったのか

新型コロナによって、具体的にどのような経営環境の変化があったのだろうか。上位にあがったのは、1位「調達先の供給量、調達コストの変化」、2位「従業員の働き方」、3位「最終消費者の購買行動、ニーズの変化」であった。最上位に、需要面の変化よりも供給面の変化があがったことが、コロナ禍における環境変化の特徴を表している。顧客の購買行動に変化があって売れなくなったという点よりも、生産したくても原材料や資材が不足し、製品やサービスを顧客に提供できない、といったジレンマに陥っている実態が浮かび上がってくる。

ありとあらゆる企業が複雑なサプライチェーンで絡み合い、事業を営んでいる現代社会では、一つの企業で調達・生産がストップすると、途端にそこから全方位的に影響し、調達が困難になる連鎖が起きる。つまり、この現状は自社の経営努力だけでは、なかなか打破できないところに問題の深さがある。

また、2番目に「従業員の働き方」があがったことも、働き方改革で進み始めていたニューノーマルな社会を、新型コロナが一気に加速させた様子がうかがえる。ただし、テレワーク・在宅勤務の導入などの本格的な対応については今後の課題として残されている。

業種別に見た経営環境変化の違いは、建設・運輸業では全体的な傾向は他業種を合わせた結果と変わらないものの、「調達先の供給量、調達コストの変化」と「従業員の働き方」の高さが、より顕著に表れた。こうした変化が、前述の経常利益へのマイナスにも反映されたと考えられる。

製造業は最も様々な変化を認識しており、調達の次に「販売先の発注量、ニーズの変化」をあげた。製品・商品マーケットの状況や、サプライチェーン上流・下流の材料供給・部品調達の影響が、販売先の発注量に影響を与えるという製造業の特徴が現れているものと考えられる。

卸売・小売業とサービス業は、全体とは順番が異なり、「最終消費者の購買行動、ニーズの変化」が上位にあがった。いずれも直接、最終消費者と接する業種を含んでおり、その変化を日々敏感に察知しているからだと考えられる。加えて、サービス業では「業界全体の技術開発、進化のスピード」も高いことが特徴的である。

図表3 新型コロナによって大きく変わったと想定される経営環境

1位を3点、2位を2点、3位を1点として点数を計算。1位~3位全てに回答したものが集計対象

新型コロナによって大きく変わったと想定される経営環境

4. 今後取り組むべき重点課題

前述した環境変化に対する認識をふまえ、今後の事業展開で重点的に対応すべき取り組みについて回答を得たのが図表4である。これによると、1位「組織・人事戦略、人材育成」が頭一つ抜け出ており、2位と3位には、「収益改善」、「全社戦略」と続いた。人に関するテーマは業種を問わず、最重要課題としてあげられることがうかがえる。中でも建設・運輸業に、その傾向が強くみられる。

製造業は「収益改善」が1となり、かつ4位「新規事業開発」が3位「全社戦略」とほぼ同水準であげられた。また、「サステナビリティ」への意識も他業種より高いことをふまえると、従来の事業モデルを大きく見直す時期に来ており、抜本的な刷新を図らねばならないといった問題意識の表れだと考えられる。

卸売・小売業とサービス業は、相対的に見て「収益改善」への取り組みはさほど高くなく、個別テーマに焦点を当てるよりも、「全社戦略」を人事関連に次ぐ重点取り組み事項としている。さらにサービス業では、「新規事業開発」「IT、DX対応」にも力点を置いており、比較的柔軟な業態や組織体制を活かし、全社的な取り組みとして新たなサービス開発に尽力していることがうかがえる。

図表4 今後の事業展開に向けて重点的に対応すべき取り組み

1位を3点、2位を2点、3位を1点として点数を計算。1位~3位全てに回答したものが集計対象

今後の事業展開に向けて重点的に対応すべき取り組み

5. おわりに

図表3で、新型コロナによる経営環境の変化を最も幅広く認識していたのが、コロナ禍のマイナス影響を強く受けている建設・運輸業ではなく、製造業であった点が興味深い。製造業は、目下の収益改善に取り組む一方、将来に向けた新規事業開発やサステナビリティにも積極的な姿勢がうかがえ、こうした取り組みの成果が、冒頭にあげたこれから始まると予測される労働生産性向上のシナリオとも一致するのではないだろうか。

サステナビリティも意識した収益改善、並行しての新規事業開発に取り組むことは、業種を問わず、持続可能な新たな需要を創造し、労働生産性向上を導く、今後の中堅・中小企業の成長戦略となりうる要素と考える。

調査概要

(1) 調査対象 3大都市圏(東京・名古屋・大阪)の中堅・中小企業のうち約9,000社
(2) 調査時期 2022年1月14日~31日
(3) 調査手法 調査対象企業へ調査票を送付し回収する郵送方式とウェブ回答の併用
なお、調査票の発送・回収、データ入力作業については㈱東京商工リサーチに委託
(4) 有効回収数 549社(回収率:5.9%)
(5) 調査項目 Ⅰ コロナ禍以降、現在の経営状況・見通しについて
Ⅱ 現在の経営課題(ご認識)について
Ⅲ 今後の取り組み(構想・展望)について
(6) 調査結果の表示方法 ① 調査結果は以下の通り、無回答を除いた回答企業数を母数として算定、表示する

・回答企業数を回収企業総数で除した百分比(%)
・回答企業数を集計区分企業総数で除した百分比(%)

② 百分比(%)は端数処理の関係上、内訳の合計(100%)と一致しない場合がある
③ 複数回答可の設問については、集計対象企業総数に対する百分比(%)の合計が 100%を超える場合がある

(7) 回答企業の属性 (※ 無回答が存在するため、各属性の合計数は、有効回収数と一致しない)
売上規模別
売上規模別

従業員規模別
従業員規模別

オーナー企業 / 非オーナー企業
オーナー企業 / 非オーナー企業

社長の年代別
社長の年代別

業種別 

複数回答のため、合計値は100%とならない

業種別 ※ 複数回答のため、合計値は100%とならない

本件に関するお問い合わせ

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
コンサルティング事業本部 経営コンサルティングビジネスユニット 林田・松本・渡辺・山本
E-mail : kcbu_survey@murc.jp

報道機関からのお問い合わせ

コーポレート・コミュニケーション室 杉本・竹澤
E-mail : info@murc.jp